蜘蛛の蠱毒は天に反ずる。

こちらの小説は暗めの犯罪的な描写が一部含まれますので、苦手な方はお控えください。
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――――――――――幾重にも重なる多くの世界。

不可説転に存在する多様な存在たち。



世界で広げられた気の狂うような歴史。現象。記憶。





多くの重大な出来事があった。
悲嘆に満ちたもの、歓喜に満ちたもの、避けることが出来なかったもの。






そして世の潮目が変わる頃、一人の少女はここに生れ出た。


彼女は生まれでたその瞬間から、
世界のすべてからの『否定』が始まった。


目に見える大人たちからの暴力、迫害、あらゆる罵りを受けた。


彼女の母は、世の中の迫害から彼女を守るため、あらゆる場所に移動し、隠れ、迫害と戦った。



彼女は歩けなくなった。

彼女はうまく育たなかった。


彼女は生まれてから大した年月も経たずに重篤に陥った。



同じく全てから迫害を受ける母は、彼女を守りきることが出来なかった。



母はどうにかして命を引き伸ばすために、あらゆることをやった。

そして神にこう頼んだ。



「精神はどうなってもいい、命を、命だけは、助けてください!」




――――――――――それは聞き入れられた。



彼女は生かされた。

奇跡的に命を紡ぎ続けることが出来た。



壊滅的ないじめにより深い闇を引きずりながら、その精神の異常性を封印し、生き続けた。


15の数字が成る時、それは起こった。



世界の運命の歯車が回り始めたのだ。







今までも地獄に近かった人生。

母親以外にはほとんどが敵だった人生に、本当の地獄が訪れた。



それは20年以上続くことになる大魔地獄の始まりであった。


唯一の味方であった母親が、そこから敵にまわり始めた。

目上の者から日常的な暴力が振るわれ始めた。


味方は世界に存在しなかった。


悪魔や怨霊が彼女の身を取り巻くようになった。


世界中のカルマが、轟々と音を立て、嵐の黒い雲のような渦を巻きながら彼女の身を目掛けて迫りくる。


そこから彼女の正義や光は完全に消え去った。



母の聖なる教え、善たる教えを心の芯に置き、

どんな理不尽な言いがかりにも、迫害にも耐え続けてきた。




しかし、浴びるように来る暴力と、無視と、恐怖にその光は姿を隠した。



ありとあらゆる魑魅魍魎が彼女の元へ集まり始め、それは形成されていった。


それまでにたった一度も絶えることなく受け続けてきたいじめにより蓄えられた闇と異常性が、
更に大きな闇へと発展していく。




彼女は修羅に魂を売った。すべての存在を焼き殺そうとした。
だがうまくいかなかった。

彼女の心の隅には、わずかに優しさが残っていた。


私に危害を加えていない善良な存在もいるのに、その方々を巻き込むわけにはいかない。


当時の彼女はまだそれだけのことを思える光があった。



しかし連日続く暴力により、彼女は狂っていく。



感情は消え。五感は鈍り、そして毎日夢の中でも暴力を振るわれ続けた。

気がおかしくなりそうなほどの恐怖が日常的に存在していた。


毎日拷問を受け続けているかのようだった。



彼女は大きな制御出来ない障害を抱え、来る日も来る日も、自分を殺したくて仕方がない衝動に駆られ始める。




彼女は抑えきれず、自分に暴力を振るい続けていく。

この世の中で殺したい多くの異性、暴力を振るった人間たち、迫害してきた人間、

それらを差し置いて、


世界で最も殺したい相手は、



自分自身となった。





彼女は自分を殺し続け、行き着く先へと向かった。


彼女は本当の死を迎えようとしていた。



門が開き、そこを超過した。



死の向こう側。




生者が行き着くことの出来ない世界。



そこへ足を踏み入れた。






気づけば何日も食事を取らず寝たきり状態になっていた彼女の姿は、光り輝いていた。


彼女は死の門の向こう側に行き、そして戻ってきた。




彼女のすべてが変わった。


多くの忌み嫌っていたものを受け入れられるようになり、
その日の彼女は覚者のようであった。



彼女は全てに満足し、すべてを許し、
すべての既に与えられているものの多くに気が付き、生かされているがゆえに生きていることを実感した。


すべての存在に慈愛の心を向けた。




しかしそこで終わりではなかった。


そこからが本当の地獄の第二章であった。


生かされていると知った彼女は他の存在と同じようなことをしようと人一倍頑張った。

毎日倒れそうになりながら、精一杯努力出来ないほどの努力をし、
歯を食いしばり、奮闘した。


しかし障害はそのまま残っていた。



彼女は肝心なところで必ず失神し、他の存在にとって何の役にも立たなかった。




13のつく惑星周り、それはやってきた。




なにかものすごい黒いものが、彼女の元へやってきた。

『地獄』だ。


彼女は悟った。


それは二度目だった。



あの時殺された時にもやってきた黒い黒いかたまり。



彼女は死の門をくぐるきっかけとなった地獄が、再び来ることを予感した。


彼女はひどく暴れた。



一度目は耐えられた。だが、二度目はもう・・・・。



人の形を、保っていられなくなる・・・。



彼女は耐えられない地獄の拷問の日々を恐れ、毎日自殺未遂をするようになる。

やがて、その気力も尽きて、彼女は再び寝たきりとなった。





彼女は、引き寄せ、という言葉を知った。


なにやらそれを使えば、人生のあらゆる夢や願望が叶えられるという魔法のようなものであった。


この地獄のような日々、暴力や虐待が終わっても、記憶の中で毎秒、毎秒殺され続ける日々。

この日々がもし、自分自身が原因で起こっていることだとしたら、

もし、この地獄のような日々を変えられるとしたら・・?





彼女は心を入れ替えるようにすべてのエネルギーを賭けて、引き寄せ、とやらの方法を実践してみた。


一縷の妥協もない、それは全身全霊のものだった。




そして彼女は引き寄せた。



史上最悪の、"犯罪”を。





すべてのエネルギーを賭けて光の方を見ていた彼女だったが、

その日だけは違っていた。


何かとてつもない闇を感じ、それに打ち勝てずにいた。


ひどく不安で、顔は青ざめ、肌艶は淀みきっていた。

苦しくて、仕方がなかった。その原因が何なのかもわかっていなかった。




彼女は気分転換に、ほんの少し、ほんの僅かの時間だけ、家を出てみることにした。
普段から引きこもりがちな彼女にとって、それは珍しい行動だった。



そしてそれは起こった。


土曜の真っ昼間、人通りもそれなりにある公園。



男の目は彼女を捉えた。


その辺を散歩していると、その人物は彼女に声をかけた。


あからさまに警戒していた彼女は距離を十分取って、その声に答えた。


少しずつ話しをするにつれ、彼女の氷の心は少しずつほぐれ、
その優しい言葉によって、


今まで耐えに耐えてきた苦しみの日々が大きなうねりとなって、彼女の目に押し寄せた。


彼女はわんわんと声を上げて泣き、それを押し留めることができなくなった。


その瞬間だった。


彼女はすべてを男に奪われた。

彼は、性犯罪を犯したのだ。



それまで大泣きしていた彼女は泣くことで精一杯だったため、その異変に気づくのが大幅に遅れてしまった。



何が起こったのか、その時は何もわからなかった。



一連の性犯罪が行われた時、普段人通りの多い土曜の昼間、陽は照り、あたりは燦々と輝いている。

それにも関わらず、その瞬間だけ、人はすべて消え去り、男の連れも消え去り、

現場には性犯罪の男と彼女しか残されていなかった。




何が起こったのか、それは誰にもわからなかった。




彼女は状況を飲み込めないなりに、男から逃げた。

すぐに水道の蛇口で洗えるところをすべて洗い、
段々と冷静になって、理性が戻っていく世界の彩りに目をやり、

状況を把握していく。



私は、とんでもないことをやられてしまったのではないか_?




そして押し寄せる、声にならない悲鳴。


そこには鳩がいた。


公園だからだ。この公園には多くの鳩が餌を求めにやってくる。



鳩に向かって叫んだ、助けてくれと。心のなかで目一杯叫んだ。



鳩は一斉に羽ばたいた。


鳩は、彼女と同じ植物人間になりかけながらも、精神的に彼女と敵対していても、
懸命に彼女の看病をし続けた、
彼女の母親のところへ一斉に飛んでいった。


母は何かを感じ取っていた。何か、只事ではないことが起こったことを。


その胸騒ぎに応えるかのように鳩が一斉に母を取り囲む。


娘のところへ行かねば、探さねば、なのにこの夥しい数の鳩は一体何なのだ!?
私の邪魔をしようというのか!?

一体何が起こっているのか・・!





彼女は無表情のまま家に帰ってきた。
母は、連絡を受けて帰宅し、それを出迎えた。





この出来事は、すべての始まりだった。



それは大きな『毒』であった。



きっと今日寝れば、明日には記憶が薄らいでもっと楽になっているはず・・。

錯乱する彼女はそう祈りを込めながら、床についた。

夢であの男が出てきた。そして夢で同じことを繰り返された。
そしてその夢は毎晩続くことになる。



毎日暴力を受け続けてきた、"あの時”と全く同じことが起こった。



彼女の扱いに困った母は、勇気づけや叱咤激励のつもりで放った言葉で、
彼女の心の傷を抉り続けた。



彼女は毎晩奇声を上げ続けていた。
彼女は狂っていた。


もはや正気でいられることは出来なかった。




時が解決してくれる。という願望も虚しく、
時が経つにつれてその傷はどんどん深く抉れて、広まっていった。




性犯罪者は言った。「愛していると」


性犯罪者はハグをした。


性犯罪者はキスをした。


性犯罪者は手を繋いで、体のすべてに触れた。


性犯罪者は彼女のすべての『初めて』を奪い取った。



男はその邪な目で最初から最後まで彼女を捉えて離すことはなかった。



それがそのまま"呪い"となった。







世の中は、"性"と"愛"で、満ち満ちすぎていた。




テレビをつけようが、ラジオを鳴らそうが、音楽を聴こうが、アニメを見ようが、ドラマを見ようが、
そして隣人や友人と会話しようが、


それらにはすべて、愛だの、恋だの、性だのが含まれていた。






それらはすべて、強烈な刃物となって彼女に襲いかかってきた。


それらすべてが、彼女の凶器となった。




性的なことを笑いながら言う異性たち。
恋愛に興味がありまくりの若者たち。

子供の話。妊娠の話。初めての話。


そしてあらゆるところで流されるニュースでは、
毎日のように性犯罪のニュースが飛び交い、彼女の精神はその事件当日に強制的にタイムスリップさせられた。




善なる人間が善意から愛していると発言した。

彼女の耳には、性犯罪者の『愛している』が重なり合って聴こえてくる。



正気を失うようなことが、こうして毎秒、毎秒起こるようになった。



あらゆることが、その時起こった性犯罪とつながっていた。


だって性は、せかいの、すべて、だったから。





そしてせかいの、もっとも深い、"闇"だったから。




彼女が引き寄せたものは一体何だったのだろうか?


彼女はどうして"それ"を引き寄せてしまったのだろうか。



その時彼女はまだ知らなかった。
世界の仕組みも。世界がどうして出来たのかも、世界の闇の深さも、恐ろしさも。




一体何が、彼女に仇なし、少女をここまでの地獄に追いやったのか。

何日も飲まず食わず、暴行の日々、植物人間、障害者、糞尿をそのへんに垂らし、
一ヶ月前の残飯を漁り、自分の手足を殴り続け、記憶を失い、水の冷たい痛みに耐えながら髪を洗う生活。


その真隣で、親から真っ当な食事を与えてもらえ、友達を作れ、人権を与えられ、
学校に通い、勉学を受けられ、好きなものを買え、行きたいところに行き、
所謂ふつうの生活を送っている大勢の生き物たちがいた。

好きなように恋愛をし、結婚をし、友達を作り、子供をもうけ、あらゆる願望が叶うが、
本人たちの多くはそれでも不満しか持ってはいない。
あれがない、これがない。と良い。
もっと良いものが欲しい、もっとお金が欲しい。もっと贅沢がしたい、
もっと良いパートナーだったならば、もっと出来の良い子供だったならば、
ずっとそう言い続けて人生を送る。



誰も、ほんとうの幸せを見たものはいない。


彼らは永遠に得られない幻想のような希望を追い求め、それを得ることを夢に持ち、
生かされていることも知らずに今日も当たり前のように生き続ける。






なぜ生まれてきたかも忘れ、そんなことすらも考えなくなる。



なぜ、世界が創られたのかも忘れ、自分がどういう存在だったかも忘れ果てる。



性に溺れ、金に溺れ、日々に溺れ、忙しさに溺れ、本質と真理を遠くへ置き去りにしていく。




性と金と欲、刹那の快楽に囚われることにより、その神性は封印されていき、
ロボットのように、事務的な作業を毎日淡々とこなすことになる。



多くの存在たちはそのようにして生きている。そうして一生を終えていく。


ふと、人生を振り返る。


自分の人生、これで、本当に、良かったのだろうか?と。








どうして忘却させられてしまったのだろうか。


あんなに、大切なことだったのに。


あんなに、魂に誓ったのに。



絶対にあれを成し遂げると、神と自分自身に約束したのに。






そうすべては、約束で出来ている。


この世界ができた時、それらは交わされた。





大切な大切な、やくそく。




20のとき、混沌が世界にやってくる。世界が狂う。

21の12のとき、世界がひらく。


22のとき、世界が始まる。すべてが、動き出す。



それは変わる。



天は地、地は天である。地獄は天国、天国は地獄。


神は偽神、魔王は・・?





世界が呼応した時、彼女はすべてを知ることとなる。


生まれて来た意味、地獄の意味、存在理由、どうして、すべての魑魅魍魎、
すべてのカルマ、あらゆる存在に否定され、迫害され続けてきたのかを。




世界はひらき、新しい世界が多くの妨害と悲鳴にさらされながらも、

徐々に、徐々にその姿を表す、






天は地に、地は天となる。








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