-ステップ4・男の夢を託したロボット-

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カラクリ屋敷のオンボロ小屋に、それは古いガラクタたちがそのまま使われずに何百年も眠っていました。
ハロウィンの夜にゴーストたちに叩き起こされ、ガラクタたちは目を覚まします。

ああ、えらい迷惑なこった。ここはどこだ?いつの時代?
ガラクタたちはしぶしぶ夜の街を徘徊し始めました。

ガラクタたちは化け物たちで盛り上がった盛大なハロウィンの夜を目の当たりにします。
そこらじゅうにお化けがふわふわ浮び、白いお化けと黒い無数の影が入り交じってそこら中を飛び回っています。
白と黒のモノトーンの中に僅かに見えるお空のお月様はガラクタたちをカンゲイしてくれているみたいでした。

古い古いガラクタは、ネジや色々な機械の部品の集まり。油がなくてギーギー変な音がしたり、
動く度にひどく軋むその鈍さに、ガラクタたちは少々憂鬱なキブン。


でも、その中で、あるガラクタだけは目を輝かせていました。
それは昔ある男がそこら中から集めてきたガラクタで作ったロボットでした。
ずっと未完成のまま300年近く放置されていたそのロボットは、
今、動く自分の手足を見つめ、嬉々とした表情でした。

興奮と快哉の中で、ロボットはそこら中を走り回りました。
周りにいたドラキュラやフランケンシュタイン、ガイコツや幽霊たちも巻き込んで、
ロボットは部品がぽろぽろと取れていっていることも知らず、そこら中を駆け巡りました。
男が14年と3ヶ月の月日をかけて、男の夢をつぎ込み続けたそのロボットは、
完成まであと僅かというところで、男の手から離れました。
男は突然戦に駆りだされ、負けて捕虜となり、そのオンボロ小屋に戻ってくることはありませんでした。
その男の夢と願いがつまりにつまったロボットが動くことはついぞなかったのです。
男の想いはロボットの中に受け継がれていました。
もし男がこのロボットを完成させたならば、これ程喜んだであろうというほどに、今のロボットは喜んでいました。
中からサビという涙が溢れていきます。

それは消耗の始まりでした。
ロボットが動けば動くほど、未完成のままのロボットはぼろぼろになって行きました。
ハロウィンの夜の魔力をもらって、動くことがやっと叶ったというのに、ネジは外れ、基盤はガタつき、
パイプは干からびた音を立てます。

ぎーごーーぎーーごーーぎーーー・・。

段々歩くことが困難になって来ました。
「ああどうして、せっかく願いが叶ったのに。」
ロボットの足取りが重くなります。

一夜限りのハロウィン、それは夢と悲しみ、命の芽吹きと死を両方彼らに与えるのです。

満月が寂しそうに嗤い、西の空に消えてゆきます。
そう、ハロウィンの終わりが来たのです。
ぎーガチャン、ぎーーー、・・ガチャン、・・・・ぎーー・・・・・、
機械の音が徐々に弱くなり、ロボットの体は重さに逆らえなくなりました。
「ああどうして、もっとこの野原を駆け巡りたい、こんなに沢山の仲間たちもいるのに!」
そしてふと見た瞬間、さっきまで賑わっていた大勢の影やお化けや他の命在らざるものたちは、
次々に消え去ってゆきます。

「ああ、悲しい、悲しい・・!今夜限り?いやそれとも・・もう二度と・・」
ロボットは自分の体の異常さにやっと気づきます。
そう、もうロボットは、歩ける状態ではありませんでした。
部品は限界を越して、一気に崩壊を始めます。
「悲しいよ、悲しい。もうこんなに面白い夜は来ないのか。」
ロボットの心は泣いていました。
一瞬の夢はかくも塵の如く消え去ってしまうのでしょうか。


ふと何かの違和感を感じると、そこには大泣きしているロボットをくすぐる白いものがいました。
その白いものは、一生懸命暴れて、ロボットをくすぐって笑わせようとしているようでした。
その白いものも、今まさに消えようとしているのに、心なしか嬉しそうです。
気づけば、周りで消えようとしている化け物たちは皆、何かに納得した表情で、満足そうに消えようとしていました。

「どうしてそんなに満足そうなんだろう。」
ロボットは、やっと叶えられたと思った夢をまた奪い取られたようで、とても憤慨し、悲しんでいたのですが、
なぜだか幸せそうな他の存在たちを見ていると、「これでよかったんだ」そう、思えてくるのでした。
しあわせでいっぱいに満たされて、何一つ未練の無さそうな彼らを見ていると、
悲しみでいっぱいだったロボットの心に、さっきまで喜びいっぱいで大地を駆け巡ったあの歓喜が蘇って来ました。

「楽しい、確かにこの一晩の、この僅かな時間、俺は楽しかった。」
お墓でガイコツたちとリレー競走をしたり、金色に光るススキ畑で隠れんぼしたり、
振り返れば一瞬だけれど、それは最大で最高の思い出。
そして何より、無数の存在たちが、ロボットにまとわりついて、ロボットのことを慰めようとしてくれているのです。
もうそれだけで、ロボットの心は悲しみから満足に変わりました。
ロボットは今、この最後の瞬間、確かに幸せだったのです。


ハロウィンの夜、満月の光は西の山陰に遮られ、東の空が徐々に明るみを帯び始めます。
大地は再びしんと静まり返りました。なのにどこか、
動かなくなったカカシも、農作物も、石ころも、何もかもがちょっぴり嬉しそう。
何も変わってないはずの朝、でも何かが違う。
空気はいつもより澄み渡り、心地良い風が隅々を巡ります。
耳をすませば、ほら、今でも彼らの嬉しそうな笑い声が聞こえてきそう。

ケケケケケ・・! きゃはははははっ!!! ヒャハハハハハハッッ!! ゲラゲラゲラゲラゲラ!







E・N・D・?


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