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[6]墜地の果て(page5)

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墜地の果て 《もくじ》
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いやだ・・・・いやだいやだいやだいやだいやだぁああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!
こんなのいやだ!こんな世界なんて望んでない!!こんなのちっとも楽しくない!ぼくはこんなところにいたくない!!
こんな世界変えてやる・・・・・・!!!!!!!


その叫びで突如辺りに渦巻いていた大きく巨大な悪が、魔界がヴァイオレットに寄せ集まって収縮を始めた。
その間も激痛はずっと続いた。憎しみも悲しみも怒りも止まらなかった。
収縮は一気には行われずに、彼の心が憎悪で満たされた瞬間また悪の塊が膨張を始めたりもした。
そんな収縮と膨張を繰り返しながら、長い長い時は流れ、そしてようやく・・・・・・。


「自分を見捨てたくない」


ヴァイオレットのそんな願いが・・・・天に届いたのかもしれない。

辺りに大きく膨れ上がって手が付けられなかった大きな悪のエネルギーはヴァイオレットの中に吸い込まれ、
大きな大きな化け物だったヴァイオレットは、ちいさな、ちょこんとした一人の少年の姿に戻っていた。



少年はボロボロだったが・・・どこかちょっとだけ晴れやかだった。
何か大きなものに勝った、そんな表情をしていた。
彼に少しだけ、自信が見て取れた。





「あ~~~~れ、なんだこのちびっちゃいの。まさかちんけな片羽ちゃんに戻っちゃったのォ~!?」

すかさず嫌な声がした。すっごく会いたくない悪魔。
そうパトリだ。

「あ・・・・何ですか・・・・一番いやな時に・・・」
「ふふふ、そ~~~ぉなんだ。ボクってば天才!?そんなピンチに駆けつけるだなんてなぁんて凄い悪魔!」
「・・・・ぼくもう帰ります。」
「帰る?帰るってどこへ?ちんけな片羽ちゃんを受け入れてくれるとこなんてどこにもないじゃ~ん!」
一瞬パトリを睨みそうになって、我に返る。
いけないいけない。パトリはいつもこうやって誰かを唆して、悪の道に引きずり下ろすのが得意なんだから。

無視するのが一番利口なんだ。ぼくだって悪戯に魔界でフルボッコに遭ってきたわけじゃないんだから。

「あ?ムシ?ムシですか~???」
ヴァイオレットの進行を阻むように、実にウザったく右から左、上に下へと割り込んでくるパトリ。
・・・正直かなりウザい。ヴァイオレットが苛ついてきてるのがわかったのか、パトリは上機嫌になって調子づいてきた。
「もう咆吼は終わり?あの激痛に喘ぐ声なかなかロマンチックだった~♪いい子守唄んなったのにぃ。もっと聞・か・せ・て♥」

ダメだ・・・・ダメなんだ。今、パトリの相手になっちゃ・・・・絶対にダメなんだ。
ぼくが放出したぼくの中の悪が、長い長い激痛と忍耐の末に、やっとぼくの中に収まってくれたんだ。
あんなのもう二度と繰り返したくない。だからパトリの声に耳を傾けちゃダメなんだ。
今でもまだ、あの憎悪や苦しみがとても身近に感じてしまう。
そう、思い返したらいつでも引きこまれて、引きずり下ろされて、あの化け物に・・・・魔王に戻ってしまいそうなんだ。
怖い。怖いんだ。
ぼくのすぐ横には、いつでもあのいちばん醜い自分が顔をのぞかせて待っている。
ぼくに、いつでも取って代わろうとしている。バケモノがぼくを支配しようと狙っている。
パトリなんかの小悪魔のせいであれだけの激痛を再び味わうなんてヤだ。絶対に。
早く帰らないと。帰らないと・・・・ごんべえの元へ・・・・・。



「・・・・んだよ。どうしちゃったんだァ?ちんけな薄汚いだけの小物にもどっちゃってサー。
本当の自分を認めなよ。」

無視され続けたパトリは、段々と口調が荒々しくなってきた。

「ほらこっち向け。」

パトリは悪魔の力でヴァイオレットを無理やり自分の方へ向かせた。


そして・・・・


「本当のお前は・・・・こぉんな姿をしてるんじゃないのか!」

ヴァイオレットが思わずパトリの瞳を覗いてしまったその瞬間・・・!

「いぎゃああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

どうしようもないくらいの悲鳴とも怒号ともとれる獣の咆吼のような叫び声が辺りを揺さぶり動かす。

ヴァイオレットが急激に闇に包まれていく・・・。
彼はパトリの瞳に何を見たのか。パトリにはパトリだけにしか無い
深く、尖い「悪」がある。

ヴァイオレットのそれとは違う、深くて醜い悪が。ヴァイオレットはそれに共鳴してしまった。
思い出してしまった。パトリの中のあまりに深すぎる悪を見た瞬間、ヴァイオレットの抑制が・・・・外れた!


「あああああああああああああああああああああががががが・・・・あああああああああああ・・・・・
・・・・や・・・・・・・・・だ・・・・・・・いやだ・・・・・・・・・・・だれ・・・・・・・か・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たすけて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「うっわ、これだけのもの見てまだんなこと言ってんの?いい加減観念しな!
何もかも終わりだ!」


パトリが往生際が悪いヴァイオレットを見て最後の一撃を放つためにパトリの悪を結集させる。

「・・・・・・これだけ集めれば奴も終わりだ。二度と正気になんて戻れやしない。

グハハハハハハハッッッ!!!!」

パトリの目はとても冷徹だった。自分を殺す時のように。誰かを殺すときのように。その殺害に、何のためらいもない。
一滴の人の血も通わない、何も感じない。彼は冷徹さという悪を持っていた。


「死ね。永遠に苦しみ続けて滅びていくんだ!!」


大きな大きなパトリの悪が放出され、足掻き続けるヴァイオレット目掛けて
その大きな悪のエネルギーは増幅しながらヴァイオレットにトドメの一撃を・・!




・・・・・・・!!!!!!





ビシッッ!!!!!!!




一瞬何か変な音がした。亀裂音のようなその音と一緒に辺りは白く光った。

「・・・・弱い者いじめに精が出るなァパトリ。」
パトリは何が起こったのかわからずキョロキョロして警戒していた。
異音が聞こえてから光が収まるまでの一瞬のうちに、咄嗟に結界を張りヴァイオレットから距離をおいて、
ちゃっかり遠くに避難してる辺りから、パトリの危機意識の高さ伺える。


「お前のその冷徹すぎる力は好きだぞ。究極まで絶望しきったからこそ出せる力か?
ハッハッハハハハ!!!!」


「・・・・・・・・・・・・。」
パトリは急にだんまりになった。そしてやはり結界を張ったまま距離を置いている。


「・・・・あんただれ。」
ぼそっと遠くでパトリがつぶやく。小さく屈んで、物陰からこちらを見ている。
めちゃくちゃ警戒しているのが見て取れる。



「我輩は魔王だ。」



「ウソ。ぼくここの魔界の魔王知ってるもん。お前みたいな弱っちい気配放ってない。」

「元、魔王だ。それと表面だけの気配で我輩の力量を判断してくれるなよ?」

「あっそ。でも・・今の魔王が来ればお前なんてイチコロだね。」

「今の魔王は我輩を殺せなかった。だから我輩がここにいるのだ。それがわからんかな?」

「・・・ハァ!?そんなはず・・・・、あっ、何か小狡い手を使ったんだね。あんた知能犯?」

「フッハハハハハ!まあ好きに想像するがいい。こいつは貰って行くぞ。」

「え?あ・・・ちょっ・・・・・!」


魔王、と名乗った男はヴァイオレットを片手でひょいっと持ち上げた後、すぐさまどこかへ飛んでいってしまった。
パトリは一瞬追いかけようとしてすぐさま立ち止まった。力の差を察知したのだろうか。
パトリはとても恨ましい目で2人を睨みつけながら、口惜しそうに2つの点が遠ざかっていくのを眺めているしかなかった。




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