緩歩のあしあと
《もくじ》 [1ページ目] [2ページ目] [3ページ目] [4ページ目] [5ページ目] [6ページ目] |
「ダーーーンテっ!☆」 ビクッ!・・と肩を震わせ、瞬時に振り返る金髪の天使。 「な、なんだ・・・、・・・ローザか・・。」 声のトーンが徐々に落ち着いてくる。 「・・誰かと勘違い?ヴァイオレットとか?」 「・・まさか。」 すっかりいつものクールな調子に戻り、そっけない態度で返事するダンテ。 「それよりお前、人を驚かすのが趣味か?ローザ。」 波打った柔らかな髪を纏ったローザは、ニッコリと微笑んで否定する。 「ダンテが勝手に驚いただけじゃない?」 「驚いたわけじゃない。」 見え透いたウソ、さっきかなり驚いていたのに。 「お前何の用だ、殺気がないところを見ると俺を捕まえに来たんでもないだろ。」 「・・・なんの話?・・まさかダンテ、何かやっちゃった?」 「いいや。悪いことは何もやっていない。」 「・・あらそう、ダンテにとっての悪いことはやってないってわけね。」 さすがローザだ、ダンテの言うことの意味がよくわかっている。 「ねえ、ヴァイオレットのこと何か知らない?」 「・・はぁ?あいつなら天界から追放中だろうが。」 「どうしてヴァイオレットが突然人間界へ追放になったのよ?」 ローザのいつになく真剣な面持ちに、ダンテは気まずそうに目を逸らして口篭る。 「さぁな。だがいつものことだ、心配するほどのことでもないだろ。」 ダンテはルーミネイトを絶対的に信頼しているらしかった。 だからなのか、ルーミネイトが下したヴァイオレットの天界追放も、 ほかならぬあのルーミネイトの判断なのだから、きっと大丈夫だろう、そう思っているように見えた。 ・・・しかしローザはダンテとは様子が違っていた。 彼女の頭の中に過去の出来事が頭を過る。 ローザは過去に天界がヴァイオレットに対してした酷い仕打ちの数々を知っていたのだ。 「どうして追放されたの?」 ローザの切迫した言葉に、ダンテの反応は鈍い。 「・・・さぁな。ルーミネイト様に直接伺えばいいだろう。・・もっとも・・」 「そうだわ、ダンテはルーミネイト様を探してるのよね?」 いきなりのローザの切り返しに少し面食らった様子のダンテ。 「あ・・・ああ、だが手がかりはまだ・・」 「はい!」 「ん?」 いきなり本を突きつけられた。 それも・・、銀の背表紙にオリーブ色の文様が入った本。 「あッ・・・・・!?」 驚きのあまりダンテが咄嗟に奇妙な甲高い声をあげる。 「な、なに??」 ローザもダンテの奇妙な声に驚く。 「こ、これ・・・どこで手に入れた!?」 ダンテに似合わず声を震わせながら微かな声量で問うた。 「・・え?イコンにもらったのよ。」 「イコン!!?」 ダンテのあまりの驚きように、ローザはいったん喋るのをやめて、 じっとダンテの顔を覗き込んでみる。 ダンテはそんなローザの動作に気づくことなく、手元にある本を見つめている。 これは・・、この銀の背表紙とオリーブ色の本、この色の組み合わせは・・、 間違いなく、閲覧禁止第三区の本。 つまり、一般には知られてはならない情報が書かれてあるということ・・ 俺達一般の天使は、決して、閲覧することなど許されない・・・。 ダンテはひと通り本をガン見した後、急に周りを見回した。 そして今度はさっと、ローザの至近距離に近づく。 「な・・なんなのダンテ?」 困惑するローザに、顔を近づけて低い声でつぶやく。 「なぁ・・ローザ。」 ダンテの表情は真剣・・というより睨んでいるようにも見え、 がっと目を見開いて、ローザの方をやや俯き加減に見ていた。 ダンテのその怪しい一連の行動に、ローザは眉を顰める。 そんなローザにお構いなく、ダンテはある問いをした。 「俺の。・・・味方でいられるか?」 いきなりの問いに、ローザは黙ったまましばらくダンテを見つめていた。 「これ以降、何があっても、俺の味方でいられるか?ローザ。」 「・・・なんのはなし?」 ダンテが何か重要なことを質問していることはわかる、 だが何を思ってそんなことを訊くのか、ローザにはつかめない。 困惑したままはっきりとした返事が得られないダンテは業を煮やし、 ぎらっと睨んで詰め寄ってきた。 「どうなんだ!俺の味方になるのかならないのか!」 「・・なによ、そんな意味深そうな問いに、理由も聞かず答えられるわけないじゃない。」 ローザはついにそう言い返した。 もっともな話だ、ローザはダンテの詰め寄ってきた二択に答えなかった。 それを受け、ダンテは一旦問い詰めるのを諦め、ローザの腕をがっしりと掴む。 「こ、今度はなに?」 「お前は癒しの魔法は得意だが、攻撃魔法では俺に敵わない。知ってるだろ。」 「・・それが何なのよ。」 「理由を説明してやるから一旦俺の家へ来い。ここだと誰が聞いているかわからないからな。」 「もう、なによ、女の子を誘いたいなら、もっと気の利いた口説き方はないの?」 ちょっと茶化してそういったローザに、ギリッと尖い目つきで睨み返すダンテ。 ローザは諦めた様子で、そのまま黙ってダンテに付いて行くことにした。 「・・ああ、俺の家に来るのなら、俺は誕生泉の方を通るから、お前はぐるっと向こう側を通って来てくれ。念の為だ。」 そういってローザの腕を鷲づかみしていた手をぱっと離す。 そのままそそくさと何事も無かったかのように、ダンテは自分の家の方向へ飛び去ってしまった。 呆気にとられるローザはただただ立ち竦んでいた。 「な、なんなの?無理やり連れて行くんじゃないの?私だけ遠回りしろって、ダンテってば何様なのよー!」 今更抗議してみるが、ダンテの姿はもう見えない。 「攻撃魔法では俺に敵わない・・ですって~?ダンテってば私を脅す気?」 ・・確かにローザとダンテでは専門分野みたいなものが違う。 ダンテは危険な場所で危険な任務を幾つも熟すために、攻撃魔法や、その他の戦闘系の技も優れているだろう。 対してローザは人間や人間界の監督や観察を取り仕切る部門に所属するため、そういった戦闘分野の技は殆ど必要が無いのだ。 天使が天使に脅しなどご法度のはずだが・・・きっとダンテはこれが脅しなどとは思ってもいないのだろう。 迷った末、ローザは色々と寄り道をしつつ、ダンテの家へ向かうことにした。 家といっても、別に人間界のように、木材やコンクリートで出来た建物が建っているわけではない。 天界でいう家をもっと的確に言い表すならば・・魂が還る空間。 ダンテという存在と、天界で最も調和し融合出来る場所、 それこそがダンテの居場所、居住空間であり、即ちダンテの家なのだ。 「やけに遅かったな。天界の最果てまで行ってたんじゃないのか。」 ダンテの家に行くと、来て早々そんな嫌味を言われた。 「ほら、来てあげたんだから、理由を話してよ?」 「なんだ、味方になる気になったのか?」 「それは理由を聞いてから決めるわ。」 「理由を聞けば後戻りは許さない。先に味方になるかどうか決めろ。」 「ええ?」 なにそれ横暴。でもそんなに重要なことなのかしら? ・・ダンテって味方が少なそうだものね。 だからそこまで親しくない私でも味方に勧誘したがるのかしら・・? 「私は一生懸命な人と、誰かを悲しませない人の味方なの。ダンテはその両方に当てはまる?」 「・・当然だ。」 「ダンテがこれからも、誰かを悲しませないって約束してくれるなら、味方になってあげてもいいわ。 もちろん、ヴァイオレットもよ。」 「・・・あいつもか・・」 ちょっと苦そうな顔をしつつも、ダンテは頷いた。 「わかった、それさえ守れば未来永劫味方でいろよ。」 (・・・なんだか強引な言い方よね、いちいち。・・まあいっか。) 「ちゃんと守ってね。」 「ああ、じゃあ今から説明することは他に漏らすなよ。」 「ええ、良いわよ。」 ようやくローザとダンテの言い合いにまとまりが見えた。 ダンテはローザの表情を一言、一言、言葉を発しながらチェックしていく。 彼女が少しでも変な態度や表情を見せないかどうか、ローザのことを警戒して観察しているのだ。 ダンテはローザの一挙手一投足を観察しながら、彼女の腹の底を探っていった。 「・・まあそういう経緯だ。」 「永凍宮の保管所に足を踏み入れたですってぇー!?よく無事・・じゃないわ、私にそんなことに協力しろって?」 「まあ、落ち着け、それでだ、この本、あろうことか巧妙な術がかけられていてな、ほとんど俺には読めない。」 ダンテの話の内容はこうだ。 ルーミネイトの手がかりを得る為に永凍宮の保管所に侵入を試みたが失敗し、現在お尋ね者になっているかもしれないということ。 ダンテが自分の叔父トッヘルの術にかかり、現在再び永凍宮には近づけないこと、力も行使出来ないこと。 そして本には妙な術がかけられており、ローザの協力と、ローザの知り合いの協力が必要だということ。 ダンテ一人の力では本がほとんど読めない、イコンがわざとそうしたのかもしれない。 「ダンテは時々、暴走するからね、一人じゃ危ないでしょ、誰かが側にいないとね。」 そう言ってニッコリ笑ってそうなイコンが容易に想像出来る。 ダンテの切羽詰まった真剣さとは裏腹に、ローザは唖然とした後、少し呆れた表情で沈黙していた。 いかにも、「付き合いきれない」と言わんばかりの心中が、表情に表れまくっている。 ダンテはいかにも協力してくれなさそうなローザの態度を察し、一旦話すのを止め、 少し考えてから再びこう続けた。 「うまくいけば、俺とヴァイオレットに関する情報も手に入る。」 「ヴァイオレットの情報・・?」 ぴくっと、ローザが反応した、案の定、ルーミネイトやダンテのことでなく、ヴァイオレットを持ち出せば・・。 「あいつに関する情報がわかれば、ヴァイオレットの処遇を今より改善出来るかもな。 或いは奴自身を救える方法かなんかが見つかるやも。」 「・・・なんか、デタラメ言ってない?」 さすがローザだ、ダンテの苦し紛れの詭弁などお見通しだった。 「・・興味ないのか?奴に関する情報に。」 ・・ここで慌てて言い訳などすると、余計デタラメを言っているように見える、ここはあえて冷静に聞き返してみる。 「興味・・あるけど、でも、その情報があったとして、本当にヴァイオレットを幸せにしてくれるのかしら?」 「んん・・それは・・。」 それは正直なんとも言えない。デマカセでヴァイオレットを救えるだとか言ってみたが、 それどころか奴にトドメを刺すようなすごい情報が見つかるかもしれない。 それこそ、二度と天界に居られなくなるような・・。 「んーー、まぁいいわ、その本って普通では知ることのできない面白いことが書かれてあったりするのよね?」 「お前にとって面白いかどうかは保証しかねるがな。」 「いいわ、協力したげるっ、それ貸して。」 ローザがその本に触れようとし、ダンテは慌てて本を遠ざける。 「何する気だ。」 「本の術を解いてもらうのよ、アーシャに。」 「・・・・信用できるのか?」 「・・・なによ、私と、この術に詳しい天使がいないと何にも出来ないでしょ?ダンテは。」 目を細めて黙ってじっとこちらを睨んでいるダンテ。 しばらくローザを睨みつけていたが、結局ダンテが折れ、アーシャという天使に本にかかった術を診てもらうことになった。 |
緩歩のあしあと
《もくじ》 [1ページ目] [2ページ目] [3ページ目] [4ページ目] [5ページ目] [6ページ目] |