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[2]天使の帆翔

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ガラガラ・・、

ゴトッ・・・・・・・




レンガや硝子や木製の破片が入り交じった瓦礫の山が、
ゴトッと

重そうな鈍い音を立てて崩れた。



そして、崩れた中に、

黒い、ひょろんとした影・・・・。





「あれ、人じゃないの?」


人・・・?

あのすごい衝撃音の中で、人が生きていた?



それにしても細長い。頼りなさそうな体つき。



怪我はしていないだろうか、
・・もしかして重症なんじゃ・・!?



咄嗟に駆け寄って、その人影の様子を覗う。





細い目、細い体、・・もやしみたい。
あまり艶のない髪。



・・・でも、不思議と、
どこにも怪我らしきものは見当たらない。



その姿勢の悪そうな男は、
ぺこっと首を曲げて、

体を妙な感じにくねらせて頭を下げた。





「や・・・・・あぁ、ぶつけちゃって・・すみません。」




変な人、変質者っぽい、そんな代名詞が
ぴったりそのまま当てはまるような、そんな男。

美人や、整ったものとは対称的な、
どこか異様さを放つ人間。



「ヒョヒョヒョ・・・・・、
お二人さんは、どちらさんで?」



ピクッと反応するN、しかし黙っている。
いかにも関わり合いになりたくないといった風。

仕方が無いので僕が質問する。


「あなたは、僕達が見えるんですか?」


「へ・・? 見えますがね。 何か可笑しいですかね?」

「いえ・・なら、極楽地獄って、知ってますか?」

「ああ、それがどうかしたんでしょか?」



・・・・やっぱり、知っているんだ。


「極楽地獄っていえば、永遠の地のことですかね。
伝説的存在、お伽話ってやつですかな。」



「え・・?何のことですか??」

・・予測していた答えとは違っていた。
伝説? お伽話‥?




「世界に存在する全てのものが最期に行き着く終焉の地・・
文化によっては永遠の楽園とかもいいますか。

・・でも今更そんな事を聞いて来る人もいるのですかね。」




逆に不思議そうに男に見つめ返されてしまった。

僕達が知らないだけで、
実は当たり前になっている事なんだろうか?





Nは相変わらずしかめっ面でいた。
少し首をかしげて、こちらに目配せする。
ちょっと来い、という合図のようだ。

とりあえず僕は、Nのところに寄っていく。





「・・ねぇ、あの人なんかおかしくない?」

「へ・・変な人ですよね・・、
あ、天使が人間を変な人だなんて言っちゃいけないかも・・。」


「あたしは人間界に長く居た天使にも聞いて回ったのよ?
でも極楽地獄なんて誰も知らなかったわ!」

「うーん、最近流行りだしたものなのかも・・」

「なんか変よー、あの人! 天使も見えてるみたいだし!」

「極楽地獄のサイトに書き込みしたからなんじゃ・・」


「どうだか・・・、だってアイツが言ってた極楽地獄は、
サイトじゃなくて、お伽話の方でしょ?」

「え、ええ・・・でも・・・・・・・・・あっ」



ふと振り返ると、あの怪しい男の人の姿は無かった。



「ああっ・・・!」

何か重要なことを知っていたかもしれない。
第一他の人とはどこか様子が違っていたし。





「・・・あの男の調査は、あんたがよろしく!」


「・・・えっ!?」

「あいつなんか関わりたくないわ。キモいし。」

「そ・・・そんな・・。僕・・」


「さ、あの男を見つけて、根掘り葉掘り情報を引き出すのよ!
何か良い情報がつかめたら、あたしに連絡ちょうだいね。」



「う・・・・・はい・・・・・。」

結局Nさんにまた押し通されてしまった。







―――もう日が暮れてしまっている。
・・あんなに激しかった雨が、
嘘のように降り止んで、

空は晴れ渡っていた。


あのおどろおどろしい渦をまいた雲、雷。
すべてが消えていた。



夕時の静けさが一気に戻った。






「うっ・・・!」


魔界に行ったせいで、僕の肉体は傷んでいた。
天使と悪魔が体内に両立するということ、


それはお互いが、お互いを傷つけあうということ・・。



とりあえず天界に帰り、
傷を癒してもらう必要がありそうだ。




・・・それに、

・・それに悪魔の血の威力が

より濃くなっている自分が恐ろしい。





僕が天界で過ごせるようになるために、多くの天使たちが、
毎回浄化と回復魔法を施してくれる。


時にそれは、非常に激痛を伴うこともあった。


多くの天使たちに迷惑をかけた。


でもそれで、そうしてようやく、
僕は天使という役目を全うできる。

ようやく天使としていられる。


天界でふつうの天使と同じように過ごすことが出来る。


中途半端な僕というものは、
どこで生きるにしても、

非常に迷惑がかかる、




そんな厄介な生き物なんだ。












―――ふわりと舞い上がる無数の羽・・否、光の粒。

僕は天界に戻ってきた。



住み慣れた地。
よく耳にする音。

いつも通り。

そう、これが安穏。



僕にとってのふるさと。

賑やかな喧騒の音、
天使の歌声、踊り舞う光たち。


フワッと、体が軽くなる。

そこはとても、心地のよい場所。


・・天使たちの僕を見る目以外は。


カラン、コロン、カラン、

リズムのいい楽器の音。

降り注ぐ光の量が、人間界とも、魔界とも、まるで違う。

目が眩むほどの光。
でもそれは眩しさではない、心地良く包み込まれるような光。




中央に位置する豪奢な建造物。

天界の本部。
その高さは計り知れない。


僕は、その城の半分すらも知らない。
だって上の方は、上級天使だらけ。

上級天使しか主に入れない。


僕は中級天使ですらない。
下級天使なんだ、

僕がグズなのがいけないのか、
それとも半天使を昇格させるとマズいからなのか、



ローザ先輩とダンテは中級天使なのに。


・・・確かにローザ先輩もダンテも、
僕よりずっと出来は良いけど・・。




でも、下にいるからこそ、

自由で、
上にいる天使よりずっとずっと見えるものがある


・・って、ローザ先輩は以前言っていた。








「おい!どこをほっつき歩いてたんだ全く!!」





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