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[3]明日の産声

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鮮やかさを天に奪われた急峻な山々、その上を黒い物体が終末の雄叫びを大地に轟かせながら鳴いている。

誕生の女神は死と口付けし、それらの力は融合を成す。

−極楽地獄 第三章−

―――開かれし扉。


≪sideA:極楽地獄に辿り着いた人間≫

柴谷朋弥は扉の前にいた。
扉の両端にある柱の中にはうねりを描きながら天に登っていく、黒と白の宝石があった。


そこは、相異なるあらゆる2つのものが融合を果たした姿であった。
黒々しくよどめく大気に醸しだされて映る、その蜃気楼のような塔。
頂上が見えることのない、永遠と天と地に向かって聳えるその塔は、
漆黒のようであり、しかし大気の影響か、時々純白にも見える。

その塔は痛々しく、けたたましい悲鳴のようなものを出しながら扉の向こうに存在するのが伺える。


俺はどうしてこんな所に辿り着いてしまったんだろう。

柴谷は心のなかでそうつぶやく。

俺はただ、この世界のどこにも居場所がなかった。
この世界のどれもが俺には拒絶反応を覚えて、痛みを伴うものでしかない。
だから、病気なんかになったのか?  そして死んだ。

でもここは、俺の想像してた天国とか地獄とかいう奴より、随分違う。
まるでこの世の果て・・、この宇宙の果てにでも来てしまった気分だよ。
俺は踏み込んではいけない領域を侵してしまった気がする。
もう、俺は、人間ですら無くなってしまったのか。

自分の姿を見るのが怖い、けど、無いんだ。自分の姿が。

見えない、どこにも。

手を自分の目の前に持ってくると、自分の手が見えるはずだろ?

・・・無いんだ、何も。


ここはどこで、俺はどうなってしまったのか、
本来ならそこを心配すべきなんだろうか。


でも俺はそんなことより、この先に逝きたいと思っている。
血走るんだ。何か解らないが、この最果てに何があるのか、俺は、肌で感じたい。


―――結局俺は、今までいた世界のどこにも本来の俺なんていなかったんだな。
俺は、俺自身を探して、ここまで来たのか・・?

眼の前にある石の門。そののっぺらな石たちが独りでに自らを刻み、
そして文様が現れる。

太陽、惑星、銀河、・・様々な天体、これは宇宙か。
この中央の柱は何だ。
この柱を中心に、宇宙が動いているのか。
どうやったら扉が開くんだ?

朋弥は無機質な表面にそっと触れてみる。
やはり自分の手は見えないが、接触した感触がある。

自分の命が吸われていくのがわかった。
これは、命を吸って動く門?

きゃ・・・キャキャキャキャキャキャッ!

門を通じて奇妙な声が響きだした。

生命が集まってくる。

螺子を巻くと動き出すオルゴールのように、
朋弥の命を吸って、世界の色が変わっていく・・。

モノトーンな世界が、光を放ちながら色味を帯びていく。
鮮やかな赤、紫、緑、銀、白・・まるでそう、色とりどりの光を放つ宇宙そのものだ。

しかし中央が、黒く抜けている、そこだけ円筒状に切り取られたみたいに。

俺の命を吸ったはずなのに、自分の命が消耗した感覚がない。
まるで、なにかこう、もともとあったエネルギーの紐を俺の中から引きぬかれて、
俺自身は、紐を引きぬかれた衝撃で、眠っていたエネルギー製造機が起動したような、そんな感じ。

うわぁ・・!

黒い六角形や八角形の細長い物体が上から蔓のように次々と降りてくる。
長い物体がそこから飛び出して、とぐろを巻きながら空中を泳いでいる。
泣き声とも笑い声ともとれる、小刻みに震える声が風に乗って運ばれてくる。

あっ・・!?

中央の黒い中から16方向に何かが出てきた。
その黒くて長いものは、円を描きながら踊るように地面に串刺しになる。
花がその蕾を開かせるように、その中央の空間を中心に、様々な奇妙な物体が、
実に多様な広がり方で、俺の目を楽しませながら開いていく。

ッジッジジッジッジッジジッジ・・


低音の何かと何かが重なって擦れ合うような音が、リズミカルに流れ、
その後それは現れた。

「・・・・影?」

光を纏わない真っ黒なそれは、俺の目の前にいた。

「影だよ。
命を持つもの、お前は何をしに来たんだい。」
「・・俺?俺は何もしに来てない。」

「嘘だろう、お前の目は体を持っていた時より輝いておるぞ。」

「アンタ一体誰なんだ。」

「お前の中の真実の答えを持つものじゃ。」

「・・え。」

「・・そう言えばお前は満足するかな?」

「・・・・・・・・・・・・・。」
「この先には何かあるのか?」

「フッホッホホッホ、そんなことはお前が決めることだよ朋弥。」
「どういう意味だよ」
「この先に何があるかだって?
人間であった頃のお前はそこに何かがあったのかい?無かったのかい?」
「は・・そんなの・・」

咄嗟に何か言おうとして言葉が詰まる。

・・そうか、俺は人間だった自分がどういうものだったかなんて、
まだ全然考えたことも無かった。
ただ何となく居心地が悪くて、全てを否定したくて、全てが嫌いだった。
俺はただ、あそこじゃないどこかに逃げてしまいたかった。

「なぁ・・アンタって・・」

朋弥がふと前を見ると、その影はどこにも見当たらなかった。
代わりに目の前の大きな大きな門が、何も言わず、その扉を開けて、
朋弥を出迎えているようだった―――――




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