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[2]天使の帆翔

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怒鳴り声。しかもすごく聞き覚えのある。



「聞こえないのか、耳がないのか!?

ローザの所にもいないし、モカのところでもない。

どこで油を売っていたんだ、
ルーミネイト様をお待たせする気か!」



ダンテ、僕の弟、僕より年下・・のはずなのに、
彼のほうが偉そう。




「ルーミネイト様が・・僕を呼んでるんですか?」



「ああ。。そうだ・・・・が!ちょっと待て。
お前魔界にでも行っていたんじゃないか!?!
すごく臭うぞ!そんな体で
本部へ行かせるわけにはいかない・・!」


「なんですか・・行けとか、行くなとか、どっちなんですか・・」

「とにかく待て、・・・・ちっ、しょうがない、
ルーミネイト様をお待たせするワケにもいかんからな、
俺が浄化してやるから来い・・!

・・ああまったく、どうしてこうなるんだ・・・!!!」




一人でイライラしたり、慌てたり、忙しいなぁ、ダンテは・・。



「・・・よし、ここでいいだろ、じっとしてろよ?
1マイクロメートルでも動いたら灰にしてやる。」

「何ですかその脅し・・・。
マイクロメートルってどんなに小さいんですか・・

第一、天使が脅しなんてよく無いと思います」


「その正論は天使と人間を相手にした時だけ通じるんだ。
悪魔相手なら問題ない、いいから喋るなよ。」

・・・言いたいことだけ言って僕には喋るなだなんてちょっと卑怯。




―――ダンテが手をかざすと、
光の、図形のようなものが僕を取り囲んだ。

幻想的、それでいて、力の威力がすごい・・・、

さすがダンテ・・。
こんなに魔法を展開させるのが素早いなんて・・、



しかもこんな広範囲に・・。

魔法のエネルギーが僕の魂に、
体全体にはたらきかける。

流れこむ。





・・・・浄化。



浄化という名の、悪魔を殺す方法。



僕の中の悪魔の血が悲鳴を上げる。




‥アア・・・!

止めろ・・・!
・・止めろ止めろ止めろぉおおおお・・・!!!!




次第に強くなる反発力・・・。

悪魔の必死の反抗を、
ダンテの力が食い止める。




鎮めてゆく・・。


ウァァアアアアアアアアアア・・・・・・!!!!




消される、僕の想い。

消滅させられる、僕という存在。
悲しみ・・・・。



・・・悲しい。消されてゆくんだ、こうやって、何度も。


そして天界に支配されてゆくんだ。

自由は掻き消され、僕の中は、

天界で、



天使の力で満たされる。





悪魔の自由は、もうそこには無い。









「・・・・大丈夫か・・?」


ダンテが、少し変な顔をして僕の顔を覗き込む。
へんな、顔。ダンテがそんな顔するなんて。
僕のことを心配するなんて。




ふと、頬を伝う、冷たいもの・・・、

涙。



僕は泣いていたのか。

これが、悪魔の遺した
最期の嘆きの涙。


個という存在を抹消させられる

痛み、悲しみ、叫び・・。





ダンテは黙って僕の方を見つめていた。
眉間にシワを寄せてはいるが、
それはいつもの、怒った顔でも、不機嫌な顔でもない・・。



彼の目は見開いて、こちらを見ている。
その瞳の奥は、どこか寂しげで、心配そう・・。

透明感がある瞳。




「おい・・・大丈夫なのか?」


再び聞き返してきた。

なんだ、僕のことがよほど心配なのだろうか?
それとも自分の魔法で
僕をどうにかしてしまったんじゃないかと
心配しているのだろうか。






「・・・・たぶん。」

「・・・・・はぁ、まあいい。
急いで本部に行ってくるといい。」


いつもの勢いのあるきつい言葉は彼からは発せられない。

ダンテはしばらく僕の様子を観察してから、
すっと横を向き、
仕事があるからと帰って行ってしまった。





ダンテが僕に向ける殺意にも似た憎悪、
そしてさっきのようなほんの僅かに見える優しさ・・、


破壊と、苛立ちと、拒絶、そしてそれとは対称的な、

穏やかな、表情。






彼が僕に向ける二つの顔。
優しさと、憎しみ。

僕は、ダンテのことを、
まだまだ知らないのでは、と感じた。










「ルーミネイト様、
ヴァイオレットヴィンセントヴァーチェス、
ここに参りました。」




ゴーンッ、


部屋の入口の監視天使が、音を立てて杖をつき、
その重厚なる音が空間に広がる。

その音に呼応するかのように、
スーッと、入り口が開いた。

僕はルーミネイト様の執務室に招き入れられる。




下がほんの僅かに透けて見える、つるつるの床。
光を発する壁の装飾。
手入れの行き届いた机、椅子、
そしてその上にある整然と並んだ書類たち。


命の宿りを感じさせる、温かいランプ。

真っ白な机に溶け込むような白い肌、
そして長く棚引く金の髪。


僕らのボスであり司令官、上級天使のルーミネイト様。
その場にいるだけで、
彼・・彼女・・?に吸い込まれてしまいそう。



どんな動乱の時も、彼の周りだけは、
常にそよ風が漂い、そっと柔らかいその髪をなで、
小鳥がさえずっている、


ルーミネイト様にはそんな、圧倒的なオーラがあった。




これが上級天使の風格ってやつかもしれない。






「やぁ、よく来てくれたね、」



ルーミネイト様が囁く、これはいつもの挨拶の言葉。




「君に、ひとつ、言い忘れていたことがあるんだ。」

「・・・・なんでしょう・・。」



視線を落とすルーミネイト、
白い柔らかい手のひらが、くるっと上を向いた。





「君は、しばらく
人間界にとどまって欲しい。

君に使いを送るまで、天界に帰ってきてはいけないよ。」




「えっ・・!?そんな、突然どうして・・!?」

「色々と、大変なんだ。
みんな君が原因だと思っているみたいだね。」




原因・・?僕が・・・?? 一体何の・・?!




「人間界に君が住まうところを用意しておいた、
きっと不自由は無いと思うよ。

それじゃあ行っておいで。」



ルーミネイトがピッと目配せをした。
菱形の模様が立体的に形成されていく。


ルーミネイト様の

青い、青い、蒼穹の瞳・・が
僕の方を見ている。



目で呪文を唱えている。




「待ってくださいどうして僕・・・!」

最期に見えた、にっこりと微笑む
ルーミネイト様の穏やかな顔。





そう、なにもかも、僕にはわからないままだった・・・・・・。
ただ同時に、始まりの予感が、僕の奥で音を立てていた。




《to be continued...》







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