明日の産声
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≪sideF:ダンテ≫ そう、天界では、今各地で様々なことが起こっていた。 一見何事も無かったかのように綺麗に修復された天界であったが、 天界中央部では、天使の重要人物たちが、何人も姿を消していた。 そして彼らの部下たちが今も天界各地を巡り、彼らを血眼になって探しまわっている。 その天使たちの中に、彼も含まれていた。 「ダンテ・・!もうやめなって!」 ダンテの同僚の天使が止めに入る。 「構うな、放っておいてくれ!」 大量の天使用探索装置を両肩に引っさげ、ダンテはルーミネイトを探していた。 「はぁ、わからん奴だな!他の大天使様たちもいなくなってるんだぞ、 もしかしたらどこかで重大な任務をこなしてるのかもしれない。」 「得体の知れない奴がいきなり天界に入り込んで天に向けて攻撃を放った、 そして大天使が大勢いなくなっていた。 こんな妙な事件が二つも起きているのに、黙って屋敷に篭っていられるか! ルーミネイト様の御身に何かあったのかもしれない!」 「落ち着けよダンテ、目が血走ってるぞ、お前が独りでどうこう出来る問題じゃないだろ!」 「ならお前も協力しろ。」 「なに!?」 喧嘩でも始まりそうな気迫の二人の天使。 しかしそれを破ったのは・・、イコンからの通信。 <ねぇ、ダンテ、聞こえる?> 「・・・!なんだこんな時に!」 思い切り不機嫌なダンテの低い声色。 <君に伝令だよ。彼女に会えるって。> 「何の話だ・・」 <天に向かって攻撃しようとした彼女、特別制御室で目覚めたよ。> 「・・・なに!」 <ダンテが彼女を取り調べて良いって、さっき許可が降りたんだ。> 「・・・・・っ!」 ダンテは直ぐ様両翼を目一杯広げて踵を返す。目指すは彼女の居場所。 ダンテの突然の挙動に何が起きたのか全く状況が掴めないでいる同僚の天使は、慌ててダンテを追いかけた。 通信内容は第三者には聞こえないのだ。 ―――特別制御室、それは主に、 力ある者を完全に封印し、且つその者に面会するための部屋。 その部屋に入ると、あらゆるエネルギーが奪わる。 長居は出来ない上、敵も味方もそこではあらゆる力を行使することが出来ない。 ダンテが管理者の天使と対面し身分を示すカード状のものを見せる。 管理者は頷くと、門番の天使3人に合図を送った。 門番の天使は所定の位置につき、3人がかりで呪文を唱えた、 何重にも重なるロックを解除し、特別制御室への扉が現れた。 「安全のため10分ごとに自動的に出口が現れます。 貴方に許可された時間は10分だけですので、10分経って出口が現れたら必ず外に出てください。 それ以降の安全は保証致しません。10分を待たずに緊急事態に陥った場合はこれで合図を送ってください。」 赤くて細長いものを渡された。どうやらこの中に入ってしまうと通常の通信すら遮断されるらしい。 ダンテは一呼吸置いて部屋の中に入る。部屋の出入口は直ぐ様閉まり、部屋は完全に密閉状態となった。 奇妙なくらい真っ白な何もない部屋。 神聖さの象徴のはずの白という色が、そこではまるで発狂を促さんばかりの逃げ場を与えない完璧な白を保っている。 その中央には紋様があり、豪奢な鎖で四肢を巻きつけられている少女が一人。 少女は両足を前に放り出し、力なく座り込んで壁に持たれかかっている。 反抗する様子など全く見られないどころか、彼女の瞳はとても純粋そのもの。 天界を危機に陥れたとてつもない力を持った凶悪犯・・などというイメージなど何処にもない。 ダンテはあまりに無抵抗な様子の少女に一瞬戸惑いを覚えた。 が、直ぐ様気を引き締め直し、話を切り出した。 「貴様、何者だ。魔界の差金か。」 「魔界・・・しらない。」 「知らない?見習い天使でも魔界の存在ぐらい知っているんだぞ。」 「しらない。」 彼女のとても率直で素直な受け答え。ダンテは若干首を傾げながら続ける。 「なぜ貴様はあろうことか天に向けて攻撃を放った?」 「・・・???」 「惚けるふりをしても無駄だ。答えろ。」 「・・・・・・・」 沈黙を続けている少女。 色々質問の仕方を変えて聞いてみるが、答える気配がない。 少女はそのことについては始終、きょとんとした顔をしていた。 「・・もういいっ!じゃあお前の知ってることは何だ!」 「しってること・・・・しってること・・・・・」 「何でもいいから答えろ。」 「・・・・・あなたのお母様は悪魔と交わった。」 「・・・・・・・・・・・!!!!??」 なんだ、気のせいだろうか、先程一瞬少女の目つきが変わったような・・。 ダンテは予想だにしていなかった自分のことを言われ、酷く狼狽する。 「どうしてそんなこと知っている!!」 「・・・・しらない。」 「お前は何なんだ!?」 「何・・?」 「そうだ、お前は天使なのか?悪魔なのか!お前は一体何なんだ!」 「わたし・・・・・・は、・・・・・・しにがみ?」 「しにがみ・・死神だと!?」 「そういってた。」 「誰が言ってたんだ!?」 「・・・・・おぼえてない。」 (くっそ・・肝心なところは全てはぐらかされる。) 死神・・それはとても微妙な言葉である。 天使にも死神のような役目を負うた天使たちはいる。 しかしハッキリと死神というようなものが存在するのか、ダンテには全くわからなかった。 「じゃあルーミネイト様について何か知っているか?」 「ルーミネイト?」 「そうだ。他の大天使たちも大勢消えた。お前は原因を知っているんじゃないのか?」 「・・・・・・・・ルーミネイト・・・」 「・・・・・どうなんだ!」 「・・・・・・・・・・。ルーミネイトはここにはいない、第七層目、閉じられた部屋。」 「・・・七、七だと・・!!」 これまた予想もしなかったことを言われ、息を呑む。 その瞬間ダンテの中で何十もの疑問が浮かんだが、それらを悠長に質問していく余裕はなかった。 「第七層・・・・お前どうしてそんなことを・・あそこは上級天使すらも自由に出入り出来ない特別な場所だぞ。」 「何かをしらべている。でも、ルーミネイトはもう、虫の息。」 「なんだと!?何を言ってるんだ!?お前何を知っているんだ!どういうことだ教えてくれ!!」 混乱と錯乱と不安がダンテを支配し始める、口調は段々と命令から嘆願に変わり・・、 「その天使は、天界の修復と維持に多くの力を使った。天界は今、彼のお陰で持ちこたえた。でも」 「どうすればルーミネイト様を助けられる!?」 悲嘆の表情がダンテに現れ始めた。 「あなたでは無理。あなたの生命回転数では第七層にすら入れない。」 目を細め張り裂けそうな苦渋の表情を浮かべながら、ダンテは今までで一番、 自分が未だ中級天使に留まっていることしか出来ない事実を恨んだ。 「こっちに来れば良い。」 少女が意味不明なことを呟く。何のことだかわからないダンテは無言のまま少女を見た。 「空間を超え、次元を超え、世界を超え、全ての秩序を破って、こちらに来ればいいの。」 「そうしたらルーミネイト様をお助け出来るのか?」 「わからない。けど、たのめばいい。」 「何を?」 「両方の存在を持つもの。」 「両方?」 ジジジジッジッ・・・・フィーン! その瞬間出口が構築され始める。もうタイムリミットの10分に達したらしい。 ダンテはさっきまでの質問の流れをふいに忘れてしまい、唐突にこう聞いた。 「貴様、名前はあるのか?」 「・・・・・・・・うん。きっと。」 出口の外枠が出来、そして・・出口がほぼ完成する。 外から天使が出ろと合図を促している。 「貴様の名前はなんだ?」 綺麗な水色の眼差しですっと見上げる。迷いのない清純な瞳で彼女は告げた。 「・・・・・レナシー。 レナシートルテ。」 |
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