[7]うばわれたもの。(page2)
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「そう、そうだ・・・、うずくまってる場合じゃなかった。
ごんべえがしてくれてた、食料調達ってのをしなきゃ・・・それから・・・。」
「この畑に水をやればいいのかな・・。
よくわからない袋がいくつかあるけど・・・なんだろうこれ。」
ごんべえは、人間のなり損ないになったぼくが空腹で困らないように、
どこで仕入れたのかわからない食材を沢山蓄えてくれており、
小屋の奥には小さな畑もこしらえてあった。
ああ・・・ここを、ぼくは何も知らずにむちゃくちゃに荒らしてたのか。怖かったとはいえ・・・ぼくってサイテーだ。
きれいに植え直された畑を見て、過去の思い出から罪悪感にかられる。
ごんべえがいなくなって初めて気づく。
ここも、あそこも、こっちも。
ごんべえの思いやりで辺りは溢れていた。
改めてじーんとくる。知らなかった。ぼくは何も見てなかった。今だって何にも見えてない気がするけど。
そういえばこの食料、毎回どこから手に入れて来てくれてたんだろう・・。
こっちも、・・・こんな道具、わざわざ作ってたのかな。
こっちは・・・ぼくが壊した履き物がきれいに直してある・・・・。
ヴァイオレットはごんべえが修復した履き物を両手でぎゅっと握りしめてうずくまっていた。
苦しくて気づかなかった。なにもかも。
ぼくはいったい、どうやって食べて、どうやって生きてきたのか。
ごんべえがたぶん、食事を用意してくれてたに違いないんだ。
ぼくは食べることなんて考えられなかったし、
何日も食べずに空腹で半餓死状態になったことも何度かあったから。
自分で食料を調達するだなんてできるはずもなかった。
こわくて何もかもがうろ覚えだけど、
きっとぼくはごんべえが持ってきてくれた食料のおかげで、今まで生きて来られたんだ。
半天使の時とは違うんだ。食べなきゃ死ぬんだ・・。
死んでも、どうでもよかったけど、でも・・・
ごんべえが今まで生かしてくれてたんだ・・・。
あのとき、見たこともない大きな翼の天使が、3体姿を現した。
神々しい光。ぼくは一瞬、神様が来て、ぼくを罰しに来たかもしれないと思った。
3体の天使の中央で、何かうごめくものを見た。
見たこともない強烈な光だった。空が強烈な光で色を失った。
天使の中央にいた何かが、語りかけてたみたいだったけど、
ぼくには何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
でもその言葉に、ごんべえだけが、反応した。
すごく真剣な横顔だった。ごんべえでもこんな顔するんだ・・・いつもにこにこ柔らかい爽やかな笑顔なのに。
ごんべえの瞳が一瞬、悲しみに曇った。
ごんべえと、あの天使たちの中央にいるものが、何かの言語で会話してるのだろうか。
ぼくには聞こえない音で。
「わたしは守りたいのです。」
あれ?さっきぼくにも聞こえた、ごんべえの声が・・。
きりっとした強い意志を秘めたごんべえの瞳。
何かに、立ち向かっている時のよう。
「私は、護りたいのです。天でなく、私は彼らと共に居ます。」
「・・・・哀れな子よ。無力なお前に何が出来よう。
やがてすぐに時期が終わり、我の懐に戻るのみぞ。」
もう一人の方の声も聞こえてきた。
なんか・・・気に食わない声。侮ってる感じ。
少し問答をしていたが、やがてすぐ、天使がごんべえを取り囲む。
ごんべえはしばらく説得している風だったが、諦めたのか、さっとぼくのほうを見た。
声は聞こえなかったが、申し訳なさそうに頭を深く下げ、そして、ごんべえの瞳がこちらをずっと見ていた。
さいごは優しそうな笑顔で、ぼくを見つめ続けながら、ごんべえは天使たちに連れて行かれた。
その大変なことが行われている時、ずっとぼくは、ぴくりとも動けなかった。
動くことを忘れていたのか、それとも動けなかったのか、
それすらわからない。
ごんべえが天使たちに連れ去られた後ですら、ぼくはしばらく呆然とするしかなかった。
・・・だって、
見たこともない光の量。そして、見たこともない翼の天使。
そして、圧倒的な、力。
そのどれもがケタ違いだった。
ぼくなんて、足下にも及ばないことは、直接争わなくったってわかってしまう、むしろ身震いがするほどだ。
ぼくはあの間ずっと頭が真っ白だったんだ。
何かを理性的に考えることすら出来なかった。
とんでもない奇跡を全身で体験しているような圧倒感だった。
超巨大スクリーンで、見たこともないような壮大な映画を見せられているようだった。
もうことばも出なかった。
何日か経って、お腹がとてつもなく減ってきたり、いつものようにとなりにごんべえがいない、
そこで初めて、気づいた。
少しずつ絶望がぼくを襲ってきた。
大変な事態になったことに気づき始めた。
夢見心地な気分から、一気に現実に引き戻され始めたんだ。
そう、ぼくは、ごんべえを、ぼくの唯一の希望の光を、
ーーーうばわれたんだ。
次第に不安が膨らみ始めた。恐怖が増大する。
一人でどうやって・・・・なにをどうやっていけばいいのか・・・・・ぼく一人じゃなにも・・・わからない。
だんだん混乱してきた、何もかもこわい、あの自分がむっくり顔を出す。
しばらくずっと、ごんべえと暮らした小屋の奥でぶるぶるふるえていた。
ここが一番安心するんだ。
ごんべえの残り香が感じられるようで。守られているようで・・。
でもお腹が減ってきて・・・とてつもなく、お腹の辺りが、ぐるぐると音を立てて何かを欲している。
なんとかしなきゃと思うようになる。
ここが一番、半天使だった頃と違うとこ。
おずおずと極めて重い足取りで、小屋のドアをうっすら開けてみる。
・・・・物音はしない。光が射した。罪深いぼくの目を焼き貫こうとする光。
・・・・でも、大丈夫そう。誰も、いない。
おそるおそる、お尻から外に出てみる。へんなポーズ。
辺りを見渡す。うん・・・やっぱ、誰もいない。
・・・・バサバサバサ!
ぎゃああああああーーーーー!!!!
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