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[7]うばわれたもの。(page8)

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うばわれたもの。 《もくじ》
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多くの生き残った天使たちはダンテの存在に気づく余裕もなく、すでに上の階層にあがってしまっている。

ダンテは取り残されたのだ。魔界の闇の中に。
いくら力の強いダンテといえど、たった一人、しかも天使が魔界の中で居続ければたちまち悪魔たちの餌食となる。

ヴァイオレットが魔界でたった一人生き残れたのは、
特別強力な天使の魔法で守られた紋章をつけていたことと、彼が半分悪魔だったお陰なのだ。

そのうえ、ヴァイオレットは、天界に昇る時は悪魔を殺す作業に近い浄化というものを受け、
逆に、魔界に降りる時は、悪魔たちに少しでも紛れる為に、逆浄化作業を受ける、これは天使の部分を殺すことに近い。
どちらも激痛を伴い、心が半分死んだようになる。

彼、ヴァイオレットは今まで、そんな甚振りに近い激痛を受けさせられても天界に留まっていた。
彼にとっては自分の居場所を失うことが一番怖かったのだろうか。
誰が見ても、ヴァイオレットは厄介者扱いを受け、天界に必死でしがみつく理由など無いように思えた。
しかも、そんな激痛を伴う作業を経て魔界と天界を行き来させられる。守護してくれる天使もいなければ導いてくれる堕天使も居ない。
ふつうの天使が魔界に赴く時とは雲泥の差だ。
ダンテは薄々感づいていた。
あわよくば、厄介者の半天使ヴァイオレットが魔界で死んでくれはしないかと天界側は思っているのではないかと。
死ななければそれはそれで利用価値があるので、誰もやりたがらない劣悪な任務を押しつけておけばいいのだと。


ダンテはそんな状況を他人事のように見ていた。
心のどこかでは、天界のやり方に賛同すらしていたのかもしれない。

ただ1人の天使だけは、違っていた。


大天使ルーミネイトは彼ヴァイオレットに高い守りの力を持つ大天使の紋章を与え、
彼が単身魔界に赴いても死なないように配慮してくれた。

そして天界で何か問題が起きればたちまちヴァイオレットに矛先が向く事態に対しても、
冷静に原因を究明するよう取り計らってくれた。



天界に存在する小さな光、味方。
半天使ヴァイオレットが天界にしがみついていられる理由はそこにあったのかもしれない。




ガリッ・・・・!
激痛とともに意識に流れ込む悍ましい気配。
ダンテは瞬時に目を覚ました。
気づけばダンテの四肢は串刺しにされ、動きを封じられていた。
ガリっというさっきの鈍く生々しい音は、ダンテの体がえぐられる音だった。
ダンテは悪魔に食されようとしていたのだ。

しかも、いつのまにか、ダンテの生きた天使の気配を嗅ぎ付けて、沢山の悪魔が寄り集まっているではないか。

その上、呼び寄せても、呼び寄せても一向に来る気配の無かった上級悪魔、ガハトが、悪魔たちの中央を陣取っていた。


「呼んでも来ないくせに・・・・こんな時になって・・・

悪魔というのはつくづく・・・・、」

ダンテは文句をつぶやくように吐いて、目を閉じた。

死ぬときは潔く。そういうことなのだろうか。

・・・・・・・ザシュッッ・・・。

鈍い音。妙に吐き気を催す悪臭。気分が悪い。


「死ぬというのはこれほど、心地の悪い・・・・」


そのとき、なにかけたたましい音がした。そしてまた一段強い悪臭が漂う。

・・・なんだ?死の感覚にしては・・・。

ダンテは何か違和感を感じ、うっすら、目を開けてみた。



「鬼」・・・!?


そこに居たのは何か得体の知れないもので、ものすごい気配を放っていた。悪魔の気配とはまた違う何か強大なものが、そこに居た。

体は赤く、赤く、業火のような怒気を帯び、目玉は剥き出しで、視線を合わせれば瞬時に死が待ち構えていることは疑いようもない。

図体はでかく、人間を何体もかっ喰らった後のように、そこら中に血のようなものが付着している。
それは計り知れない化け物で、悍ましい、悪魔とは全く違った悍ましさがあった。

何かに怒り、人を殺し、それでも怒りが収まらず、多くのものを惨殺してきた。
そんな惨たらしい惨状を見ても、ほんの僅かすらも心が動かない。
凍りついた心と、凄まじい憎悪。目を覆いたくなるほどのことを平気でやってのける。
それでも人か?悪魔か?
悪魔であろうともここまでの酷たらしいことが何の躊躇もなくやってのけられるだろうか。
こんな大きな怪物に至るまで、一体どれだけのえげつない罪を犯してきたのだろう。
・・・そう思いたくなるようなものを、この鬼は持っていた。

そして辺りには、鬼が惨殺したであろう、普通に殺された時より何十倍も醜い姿の死体が散在していた。

その鬼は、ゆっ・・くりと、自らの大きな影を引き連れて、その辺の死体を引きずり散らし、こちらへ向かってくる。

影で覆い隠されてはいたがうっすら垣間見える壮絶な体験をしてきたであろう、
修羅のような歪んだ顔つきが、徐ろにこちらへ方向を定めた。


ダンテは身震いをしたあと、体が硬直し動けなくなる。
それはこっちに近づいてくる。
ーーーー食べられるのか?煮て焼かれるのか?
もう何も文句は言うまい、どうせ悪魔どもに殺されかけたこの命・・・・。

覚悟を決めたダンテだった。

・・・が、それは、徐々に姿を変えていった。

鬼、と見紛うものから、ダンテのよく見知った姿のものに・・・・。


・・・・・・。


ダンテはその姿を見て、言葉を失った。

なにも、わからなくなった。


なぜなら目の前に居たのは、先ほど鬼であったものは・・・


「・・・・イコン。」



搾り取るような声で、ダンテが問うように囁く。



「おまえ・・・・・なのか。」




まだ少し震えている。目の前の鬼は、明らかにふつうでは無かった。
あの異常なまでの気迫に、ダンテは本能からの怯えを感じていた。


そして信じたくなかった。目の前のものは幻想だ。
俺は死を間際に、変な夢でも見ている。


そう、思いたかった。



・・・・なのに。



「・・・・・ごめん。」

目の前の鬼だったものは、そう小さく呟いた。


気づけば鬼の気配はなく、小さな小さな、可愛らしい図体と、
マスコットのようなふわふわした髪の毛、そしてくりくりした愛らしい瞳、
その容姿はそっくり、そのままイコンだった。


ダンテは何がなんだかわからなくなっていた。

ただただ悲しそうに下を向いているイコンを見つめるしかない。

理由すらも聞けない。何が起こったのか。なぜイコンがここ、魔界にいるのか。
先ほどの姿は何なのか。

俺が知っているイコンは、一体どこへ・・行ってしまったのか。


俺がよく見知っていると思っていたイコンは、もしかすると・・・・。



不安と、不信感が、そして悲しみが、体中にぐるぐると渦を巻き、吹き出しそうだ。
過去の記憶が、次々と脳裏を過る。

あれも、これも、実は全て偽りだったのか。

あの出来事も、この出来事も・・・・・!

俺が信頼していた数少ない天使、イコン。

事あるごとに相談しに赴いていた天使、イコン。

彼だけは信用に値すると、どこかでそう思いこんでいた、イコン。


あの笑顔は偽りで、今までの会話は偽りで、俺は一人、勝手に勘違いをして、信頼がおける数少ない天使だと、
そう思いこんで・・・・!


「おまえは、一体誰なんだ・・!!」


心が叫んでいた。悲しみで何かが埋もれてしまいそうだった。
胸が張り裂けそうだった。悪魔に殺されるよりもあるいみ残酷な、最愛の友の裏切り。信頼の裏切り。

いままで何一つ、何一つだ、奴は、イコンは俺に打ち明けてすらくれなかったということなのか。
俺は、奴に、何一つ信頼されて・・・・いなかったというわけか!!


近くて遠い2人の距離は、無言の空白となって、辺りに漂った。




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