[7]うばわれたもの。(page6)
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そう言ってはみたものの、イコンがこの中にいないはずがないのだ。
なぜなら・・・イコンはここから一歩も、外へ出られないのだから。
なぜ出られないのか、具体的な理由は聞いていない。
詳しく聞いてもはぐらかされるか、沈黙されるだけだ。
イコンは時々、とても深刻な面もちで、ダンテに何かを話そうとしたことがあった。
だがすぐに、にこやかな笑顔でごまかされて、そこで終わりになってしまった。
今思えばもう少し深く尋ねてみてもよかったと思う。
イコンの様子が最近ずっとおかしかったし、存在も希薄になっていた。
ダンテはこの時以降、イコンのところを尋ねても、イコンに会えることはなかった。
胸がざわつき、ひどく不安になり呼吸が乱れたが、
ダンテにはどうすることもできない。
イコンの安否を確かめることも出来ない。
なにしろイコンは、天界の者たちとは交流をほとんどしない為、ほかの天使からイコンの情報を聞くことは殆ど不可能なのだ。
そもそも天界貯蔵図書館へは、ある特殊な任務の一環で出入り出来ることとなった。
ダンテは色んなことを調査できる特別な権限が与えられていた為に、日頃から沢山の情報にアクセスすることは可能だった。
だがある特殊な任務の際、通常の天界で閲覧出来る情報では、任務の遂行が困難だと判明し、
ルーミネイトに相談しにいったことがあった。
ルーミネイトはある天使を紹介し、彼に導かれて天界貯蔵図書館へと向かった。
そこでイコンと出会うことになったのだが、そこへ行けたのはダンテに特別な任務があったからだった。
その任務を遂行し終えると、再びそこへ赴くことはなかった。
だがやがて、困難な任務をいくつも成功させたダンテは信用を勝ち取り、やがてイコンとの恒常的な接触を許可された。
但し任務上、必要な時のみという条件付きで。
ダンテが知っている限り、イコンのところへは数人の天使が出入りしているようで、天使ローザもその1人みたいだ。
だがダンテはローザがどういう理由でイコンとの接触を許可されているかまでは知らない。
ただ一つ言えることは、天界城にいる天使どもは、基本的に厳密で厳格な為、
イコンと会うことに関してもそれなりの理由が必要だが、
一旦イコンとの接触を許可された後は、
多少必要もないのにイコンと会っていても案外何も言われないのだ。
それは天界城の天使どもが目をつぶっているというよりは、
おそらくイコンの上司のトマスファリが厳格ではないのだと推測する。
ダンテは魔界へ赴くことになるまでの間、なるべくイコンに会っておきたくて、
何度も天界貯蔵図書館を訪れてみたが、遂に会うことは叶わなかった。
今回の任務はかつてないくらいに大きなもので、
まして目的は上級悪魔討伐。
無事に帰って来られる保証もない。
ヴァイオレットが魔界に墜ちたという一大ニュースが飛び交ってからというもの、天界は少し焦っているのかもしれない。
これ以上魔界によって、天界の勢力を削がれたくないのだろう。
あの大事件が起こってから、悪魔による天界への攻撃が多発している。
表だった攻撃だけならまだいいのだが、
一番天界が恐れているのは、悪魔による誘惑でヴァイオレットに続き、多くの天使が堕天してしまうことだ。
ただでさえ、半天使ヴァイオレットのせいで、天界から魔界へ続く転落への道筋が大きく生じてしまっている。
つまり天使たちが悪魔たちの口車に乗って堕天しやすくなっているのだ。
天界側はこの非常事態を静観しているわけにもいかないので、
今回わざわざ、魔界に赴いてまで、上級悪魔を討伐するなんていう無謀にも思える命令をしたのだろう。
魔界という天使のフィールドでない場所に赴くということは、天使にとって圧倒的不利なのだ。
そこに居るだけで、力を削がれてしまう、魔界は天使にとっては長居してはならない場所なのだ。
第一部隊は西方へまわり、援護にそなえよ、第三部隊は・・、
耳に触る甲高い声で、作戦を何度も聞かされる。
どちらかというと個人で戦うことを好むダンテは、こういう集団行動が苦手な方だ。
入念な準備の後、よくわからない指令で、あちらこちらへと移動させられる。
ダンテは全く乗り気になれない。出来ればいち早く帰りたい。
イコンのことも気がかりでならないし。
ため息が自然と幾度もダンテの口から流れ出る。
「戦闘が始まったーーーー!!!!!」
かなり向こうの方から張りつめた声が聞こえた。天使の声だ。
最前線で交戦が始まったようだ。
ダンテもいよいよ、やる気が出ないなどと言ってられなくなってきた。
天使の戦闘スタイルは様々で、ダンテは細い、サーベルのようなものを使い戦闘するのを好む。
もちろん、どんな攻撃の仕方も可能なので、攻撃らしい動作をせずじっとしたまま戦うという一見すると突飛な戦闘方法も見られる。
前線での攻撃が始まった後も、ダンテのいる部隊にしばらく出番はなく、このまま順調に運ぶかに思われた。
・・・・が、突然、魔界の闇にけたたましい奇声がひびきわたった。
かと思うと、悪魔の大軍団が上空を瞬時に覆った。
上空を照らし多くの天使たちを保護していた空中部隊の天使たちがかき消されるようにして黒の悪魔たちに飲み込まれる。
上空の光は一瞬にして闇に変わった。
大勢の天使たちに緊張と恐怖と不安が過る。
そんな中、カローという部隊長の天使が状況を変革させる。
彼は数十の精鋭部隊をつれて上空の悪魔集団と健闘していた。
徐々に混乱が大きくなる中、ダンテの部隊にも多くの悪魔が押し寄せ、ダンテも必死に戦っていた。
だが、どこか力がでない。なにか、むなしい。
あの人が居ないからだろうか。
ルーミネイト様。あの天使の為ならば、どんな激務でも熱意をもってこなせたというのに・・。
戦いの中にも波があり、勢いの中にも波があった。
激しく交戦した後、しばらくにらみ合いとなったり、ほかの部隊の応援に駆けつけたりと、
当初練られた作戦はまるで意味を成さなかった。
ダンテは戦場となった魔界を駆けずり回った。
”薄汚い”のが大嫌いなダンテも、戦場を駆け巡り、何度も激戦を繰り広げ、気づけばボロボロになっていた。
これが天界ならば、天界の空間がもたらす治癒力で天使たちはたちまち力を回復することが出来たのだが、
ここ、魔界ではそうもいかない。
薄汚れた兄、ヴァイオレットのことを、俺はいつも鼻で笑っていたな・・。
ふとそんなことが脳裏を過る。
するとどうだろうか、目の前の悪魔たちの集団の中に、奴(ヴァイオレット)らしき姿が見えた!
あっ・・・・と声が出そうになったその瞬間・・!
ザシュッ・・・・。
むごたらしい無慈悲な音とともに、その悪魔は天使に消されてしまった。
・・・・普段、慈愛に満ちた天使が、とても残酷に感じられた。
敵とみなし、戦う、とは・・・・、こういうことなのか。
天使が、天使でなく、悪魔とも見間違えそうで、ダンテはなんだか少し怖くなった。
天界を守るため。そう、目的は、愛する天使と人間を守るため。それが目的だったはず。
守るため・・・。そうして、目の前の悪魔は無慈悲に殺された。
それが正義なのか・・。
あれは、ヴァイオレット・・・だったのだろうか。
いいや、ほかの、他人のそら似だったかもしれない。
だがもしヴァイオレットだったとしたら俺は・・・。
ヴァイオレットは魔界で最後に目撃されて以来生存自体が確認されていない。
もしかしたら魔界のどこかに・・・・。
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