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[7]うばわれたもの。(page5)

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うばわれたもの。 《もくじ》
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ダハーカ様!ダハーカ様!

けたたましい声で悪魔が叫ぶ。

その切迫感とは裏腹に、呼ばれた悪魔は従容としてポリポリ頭を掻いている。

ヴォルニート様!

別の悪魔がまくしたてるように呼びかける。


むっくりと、デカい図体を起こし始めるダハーカ。
そのあまりの大きさに、少し動くだけで周りの悪魔たちが一斉によける。

「あの小僧の様子はどうだ?」
「それより大変です!奴が動きました・・!」
「・・・ん?」
悪魔がダハーカの近くに寄って何かをこそこそと話している。

しばしダハーカは考え込んだ。
大きな左手でデカい顔を覆い隠し、人差し指をとんとんと動かしている。
そしてダハーカは背中から黒い枝状のものを延ばし、それを地面に勢いよく突き刺した。

しばらくして緋色の扉が開き、悪魔がやってくる。

その容姿は幼さの残る女性のようで、紺桔梗に染まったネグリジェのようなものを纏っている。
そして右手と思われる部分には黒ずんだ大きな怪物が融合していた。

彼女はとても・・・気だるそうだ。

「・・・呼んだ?起こすならもうちょっと丁寧にしてくれない?」
「ネボラ、あの悪魔どもが暴れているらしい。なんとかしてやれ。」

ネボラと呼ばれた女性は、不機嫌そうに顔をくしゃりと歪ませた。
「・・・・叩き起こしていきなり言う言葉?」
「今回の騒動の黒幕は大物らしいぞ。」
「・・・・・・。そういえば私が靡くとでも・・」
ダハーカは黙って白いものを突き出した。
ふわふわして白い、そう・・・天使の羽のようだ。

それを見て目の色を変えた悪魔は、挨拶代わりに軽くダハーカを睨みつけて、そそくさと出ていった。






一方、天界の奥の貯蔵宝物庫あたりで2つの声が聞こえてくる。
「天使どもが魔界に?」
「そう、最近、悪魔たちのちょっかいが増してきてるでしょ?」
はっきりとした勢いのある強い声、そして、穏やかで落ち着いた少し可愛らしくもある声。
声の主はダンテとイコンだった。

「・・・それで、わざわざ魔界に出向いたのか?」
「親玉の悪魔に直訴するらしいよ、無謀だよね。」
「・・・・うむ・・。」
・・・・それを聞いて、少し考え込むダンテ。
ダンテは事あるごとにイコンを頼って天界貯蔵図書館に足を運ぶのだが、今回の本当の目的は、いつもとは違っていた。


イコンに気づかれないよう、ちらっと一瞬イコンの方を窺うダンテ。

ーーやはりだ。

以前から気になっていた。
イコンの存在が・・・・。"希薄"に感じる。


天使は力が弱まると存在が希薄になる。存在する力が保てなくなると、分散して消えてしまう。

それが、天使としての、ひとつの「死」。


ダンテはここ最近のイコンの様子がとくにいつもと違っており、それに強い不安を感じ任務どころではなかったのだ。


ー理由を聞きたかった。どうしたのかと、尋ねたかった。
・・・だがどうしてか、イコンを前にした途端、口から出ようとした声は消えていった。


でもその煮えきらない態度のダンテを見てイコンが感づかないはずはなく・・・。


「ねえ、どうしたの。」
「・・・・んっ・・?」

「何か言いたいことがあるんでしょ?」

・・・ついにイコンの方から尋ねられてしまう。
一瞬思考が停止し、口ごもるダンテ。
・・・どうしたのか?と・・、
・・・素直に尋ねて良いものだろうか・・・。


「・・・ぼくのこと、何か、疑ってる?」
「いや・・・そんなことは!」
何か誤解を生じさせてしまった気がしたダンテは、慌てて取り繕い、口から出任せの言い訳をしてみた。

「・・・・ふぅん、ま、いいや。」
イコンは何となくそっぽを向いて適当に会話をした後、ダンテと別れた。

ダンテがその場を立ち去った瞬間・・・、
イコンの瞳の色が変わる。

なにも言わず、イコンの表情は硬直していた。
心の中で泣いているのか、イコンの悲しみは表情からは読みとれない。

ただ僅かすらも動かないまま、体も、顔も、静止していた。


あまりに長い間暗がりで静止しているイコンを見かねた上司のトマスファリが、ついに声をかけた。

「あのさ、そんなにつらいかい?」

トマスファリがテレパシーのようなもので、イコンに直接声を送ったのだが、イコンはやはりしばらく静止していた。

だいぶ遅れて、イコンの瞳がふと我にかえった。

「いつかはそのときが来る。もう君も解き放たれて良い頃だ。」

「無用な慰めはいらないよ。
ぼくはこのままここで、存在をかき消されて、
誰にも気づかれないまま消えることになるよ。」

「No~ノ~、未来はいつでも、誰にもわからない。」

イコンはなにも言わず、ちょっと馬鹿にしたように、背中で笑った。
天界がそんなことを許してくれるはずもない。そうだろ?
そういわんばかりの抗議の目で、イコンはトマスファリがいるであろう天井を睨んだ。

トマスファリは知っていた。
未来はいつでも、想像だにしないことが待っていることを。

イコンもまた知っていた。
運命や境遇はそんなに簡単には変わらないことを。



・・・・・ただ、その時は、刻一刻と近づいていた。
その新たな運命の到来は、足音もないくらい静寂で、誰も気づくことはない。
それがすぐそこまで迫って来ていても。
明るみに出るまでは。誰一人として気づかない。




今、天界では密かに大きな計画が練られていた。
最近天界の周りで起こる不祥事や惨事に、悪魔たちが関わっていることは火を見るより明らかで、
天界は多くの天使を使い黒幕を探っていた。

天使たちはその調査の一環として天界側に協力的な堕天使を使ったり、時には天使自ら魔界に赴いたりもしてきた。

魔界で悪魔に襲撃され命を落とした天使もいる。

やがて天使たちの長きにわたる忍耐の末、ついに黒幕らしき上級悪魔が浮かび上がってきた。


上級悪魔ガハブ。彼を討伐せよという命令が、ある朝、ついに天使たちに下されることとなった。

その任務には、多くの天使が動員された。
その中に・・・・

「俺もですか?」

「はい、そうですよ、」

ルーミネイトに代わって命令統括を務めていた大天使フェルメイにあっさりダンテの名も呼ばれてしまう。

魔界などという薄汚い場所には極力関わりたくないダンテは、 必死にごねてみたものの、
フェルメイに華麗に流されて、ダンテはそのまま討伐部隊に加わることになってしまった。

大天使の呼び出しが終わり、天界城を後にしたダンテは、重苦しい足取りで天界をふらついていた。

そのさまよえる翼は、やはりいつものように、イコンのところへと自然に引き寄せられる

「・・・なぜこうも、大天使というのは、俺の話を華麗にスルーするのが上手いんだ!!くそっ・・」
少しでも汚れた場所を嫌悪するダンテにとって、魔界とはまさに"史上最悪の場所"なのだ。

ダンテはぶつくさ文句を言いながら、いつものようにゲートをくぐり、天界貯蔵図書館の入り口に立った。
入り口に手を当て振動を送り、自分の来訪を伝えるが、中から反応がない。

「・・・・イコン?いないのか?」



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