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[7]うばわれたもの。(page4)

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うばわれたもの。 《もくじ》
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・・・そういえば悪魔にも出会ってない。
悪魔にずっと取り憑かれていた気はするけど。
実体を持った個体の悪魔には出会っていなかった。

なんだか妙なことばかりだが、とりあえずそんなことを考えているゆとりはぼくには無かった。

天使を見てからというもの、しばらくは大人しく小屋に引き篭もるしかなかった。
だって、畑に出ただけで天使たちに見つかるかも知れない。
本当はそれでも不思議だった。
なぜって・・・天使たちの捜索網は、ぼくが小屋に引き篭もってるくらいでは、かいくぐれないほどに卓越していたから。

・・そもそも人間のぼくが、天使や悪魔相手に太刀打ちできるはずもない・・・。

・・・・そもそも・・・・。


そうだ、そもそも、ぼくはさっき、天使が見えた。
ああいう捜索をしている時の天使は決まって姿を見えなくしているので、人間の目からは特に見えないはずなのに、
それなのに、人間のなりそこないの今のぼくにも見えた・・。


よくわからないことばかりだ。

ぼくはどのへんがふつうの人間と違って、
そもそもふつうの人間ってのはどういうもので、
今のぼくは何を失ったのだろう。

少なくとも羽はない。

どっちの羽も、翼を広げられそうな感覚すらない。

そんでもって、お腹が空く。
これも以前は無かった感覚。


あれ、ぼくって、一度、記憶を消されなかったっけ。


あまり思い出したくない記憶。
そうだ、ぼんやりしているけどものすごく苦しかった。
今とどちらが苦しいのかわからなくらい、あの時も苦しかった。
確か記憶を消されて、変な術をかけられたんだった。
無理矢理苦しいものにふたをされたみたいな感覚で、
余計にむずむずして、イライラしたけど、その時は原因がわからずにただもがいていたような気がする。

人間になってから・・・・一度死んで、冥界を通って魔界に行ったのかな。
それで、この絶望と苦しみが死してもなお続くんだってことにまた絶望して、魔王への道を歩んでいったような・・・。

天使に消された記憶は結構よみがえってきてる。
でもそれとは別に、今まで思い出せてたことが思い出せなかったりしてる・・。

ぼくの記憶、かなり錯乱してる気がする。


ぼくは魔王になったのかな。でもあの元魔王さんに言われたっけ。
一時的に魔王のようなものになっただけで、魔王になったうちには入らない。って。

魔王になるにはもっとはっきりしたエネルギー体と、魔界を形成するものだとかなんとか・・・。


ぼくは魔王にもなれなかったのかな、でもあんな苦しくて惨たらしいのはもうたくさん。
どれだけ落ちたとしても、もうアレにはなりたくないなぁ・・。


でも、それなら、なぜあの元魔王さんはあんなに明るくて元気いっぱいなんだろう。魔王なのに。
魔王ってもっと怖くて恐ろしいものなんだと思ってた。

半天使で、半悪魔だったぼくは、魔界の魔王には当然お目にかかれなかったけど、
ぼくが天界と魔界を行き来していた頃は、あの元魔王ってヒトが魔王をやってたんだろうか・・。

そういえば、ぼくは魔王というものを全然知らない。
いつも魔界にいくと、その辺の下級、中級悪魔にボコボコにされていじめまわられるから、そんなすごい悪魔と知り合うこともなくて。


・・・・ジルメリア。そうだ。ジルメリアは博識だった。
魔界の色んなことを教えてくれて、その代わり、魔界以外の色んなことを聞いてきた。
天界にさえ興味を示していたと思う。

結局、自分のことに必死で、大切な存在だったジルメリアの生死すらわからない。

ジルメリアは天使に殺されたってパトリは言っていた。
本当か、ずっと確かめたかったのに、結局悪魔は素直に答えてくれないし、
質問しても、代わりに天使を1匹よこせとか、ぼくの天使の部分をよこせとか、冗談にもならないことを言ってくるし、
それに、その通りにしたってなにも教えてくれはしないことぐらい、ぼくだって長い魔界生活でわかっているんだ。

魔界をあきらめて、人間界に来てみたものの、案の定ジルメリアに関する情報は全くなくて・・・。

ぼくはあれっきりジルメリアの捜索が出来ないでいた。


そもそもぼくははじめ、天界と魔界を行き来するような任務を任されていたんだ。
その後人間の悪行と善行を記録したり、極楽地獄とかいうwebサイトに関して調べたり、色々な任務をこなしてきたつもりだ。
あの時は、どこか光があった。
ローザ先輩やダンテや、イコン、モカがいてくれた。
あの時のぼくは自分のことをそんなに幸せだとは思っていなかったけど。
いつも一人で落ち込んでいたし、天界に味方はほとんどいなかったし、
つらいことばかり、我慢することばっかりだった。
でも、今思えばある意味あの時は幸せだったかもしれない。
やるべきこともあって、天使になるぞ、天界にとけ込むぞ、ちょっとでも、後ろ指を指されないように、
天使らしくなってやるぞって、すごく意気込んでた。

ものすごく頑張っていた。
あの頃のぼくには実は光が、目標があったんだ。今になってわかる。
時々懐かしくなる。あの光が恋しくなる。もう今はどう頑張ったって手に入らなくなってしまった光。

どうしてこうなってしまったんだろう。
そう・・・・そうだった、ルーミネイト様にある時突然言われたんだ。
天界にいちゃいけないって、その言葉がなによりも、誰よりも頑張ってる僕にはとてつもなくショックだった。
信じたい、でも・・・もしかしたらぼくは、もう用済みなのかも、
人間界に、厄介払いとして追放されちゃったのかも・・・天界から見捨てられたのかも・・・
そんな絶望と不安と悲しみが奥底にずっとうずいていた。

あまりにそれが苦しくて、ぼくにとって重い足枷みたいだったから、
しばらく、思い出したくなくて、面倒を見てくれてたノルディさんのもとを離れようと思った。
天界から追放された事実から逃げたかったんだ、少しでも。認めたくなかったんだ・・とにかく。

そうしたらパトリと出会った。パトリは魔界ゲートを開けるよう唆してきて、結局魔界ゲートは開いちゃった。
・・・でも、そこでかけがえのない人と出会った。
ごんべえ。いつの間にか、ぼくの心の奥底の支えになってた存在。
彼といろんなところを旅した。彼といるとどんなことをしていても穏やかで楽しくて不思議だった。
魔界が魔界じゃないみたいに感じられたし、人間界でも穏やかな楽しい気分でいられるのは変わりなかった。
彼といるとあまりに心地良いから、自分には天界じゃない、もっと理想の場所があるんじゃないかって思えてきたんだ。
天界に戻らないわけでも、戻りたくないわけでもなかったけど、
でも今は、今だけは、ごんべえと一緒にいろんなところをまわってみたかった。
あの頃の自分は、理想郷を探すっていいながら、本当はごんべえの横に居場所を感じていたんだろうな。


でも、それも、突然終わりを迎えた、ごんべえが突然いなくなって、ぼくは目の前が真っ暗になって、絶望した。
ごんべえまでぼくを捨てたと思った。
ぼくはもう、今まで我慢してきたものが、不安が、恐怖が、怒りが、膨大な力の渦となって内から飛び出していくのを感じたんだ。
それで、どうしようもないことをした。
もうここからは何も思い出したくない。
ぼくの、ほんとうの、暗黒時代。



昔のぼくが暗黒の中にいなかったとはいわないよ。
無理をして、我慢をして、それが報われるって必死に信じて、疑わずに、
バカみたいに。ひたすら健気に、踏みつけられても、貶められても、無視されても、邪険にされても頑張ってきたんだもん。
相当惨めだった。だからこそ、ごんべえがいなくなったのをきっかけに、
我慢してきた悪いものが、今までされてきた沢山のひどい仕打ちが全部、悪の渦となって流れ出たんだから。


でも・・・でもね、今のぼくみたいに、ここまで
何も見えなくて、毎日発狂しそうな恐怖におびえて、人ですらなく、悪魔でも天使でもなく、味方もいない。
それに天使はいつぼくを殺しにくるかわからない。
ぼくにはもう魔法が使えず以前のぼくよりもっと虫けらみたいな弱い存在。

毎日が悪夢とか地獄絵図のようで、そう、地獄にいる時、いつ止むともしれない悪魔たちの暴力に耐えている時みたいに。
でもある意味あれよりひどい。
あの時は使命感とか目的があった、ローザ先輩に会いたい、会える、そういうものがあった。
でも今は違う。滅びと、絶望と恐怖と、今日殺されるだろうか、明日殺されるのかな、毎日そんな気が狂いそうな恐怖の中で生きている。
何の力も使えない。

以前のぼくよりもさらにひどい。

ぼくはどこまで落ちていくんだろう。



こんな地獄のような日々は初めてだよ・・。






ぼくはあと、何を奪われて、どれほど苦しめば終わるのかな。






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