[7]うばわれたもの。(page9)
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ダンテがおそるおそるイコンの方を見ると、彼は・・・泣いていた。
そこから少しも動くことなく、ただただその赤い瞳はダンテを見つめ、瞳には沢山の悲しみや葛藤が見えた。
ダンテはその様子を見、悲しみがだんだんと怒りに変わってきた。
「なぜ泣いてる!答えろイコン!おまえがなぜ無く必要があるんだ!俺のことなど信用していなかったんだろ!
・・・なんなんだ!どうにか言え!」
雄犬のように吠えたてるダンテを見て、イコンは少し微笑んだ。
「変わってないね。いつものダンテ。ぼくね・・」
すこし辿々しいが、いつもの優しいイコンの口調。
その聞き慣れた声色に、ダンテは少し落ち着きを取り戻した。
「上級悪魔、倒してきたよ。」
イコンの衝撃的な一言。鬼の姿がイコンに重なって見える。
イコンではないイコン。俺の知っているイコンではないなにか。
恐ろしい、とてつもなく恐ろしいなにか。
そういえば先ほど大勢いた悪魔たちも、気づけば骸の山の一部となっている。
「やはりお前は・・・・。」
「ぼくが怖い?・・・きらいになっちゃった?」
化け物でも見るような目つきでイコンを見つめるダンテに、イコンは悲しそうに笑ってみせた。
「なぜ・・・お前みたいなのが天界にいる・・。お前は悪魔じゃないのか。」
ダンテの痛烈な一言に、イコンは笑顔のまま唇をきゅっと噛みしめた。
こういう時のダンテの冷淡さは結構なものだとイコンも重々承知だったが、
いざそれを自分に向けられると、キリキリと胸が痛む。
ダンテは天使以外の存在のものにとても冷淡で、敵意を剥き出しにすることを、イコンはずっと知っていた。
そうずっと昔から、横で見ていたのだから。
きらいになったかなど、再度聞き返す必要もない。
今、ダンテとイコンの間に流れている空気は、とてつもなく冷えきっていた。
ダンテの目はお前を信用をしていない。そう訴えていたし、もう。何も言葉を交わす必要などなかった。
でもイコンはそれらを全部跳ね除けるようにして、再び尋ねた。
「・・・ぼく、ぼくといっしょに」
「お前は何者なんだ。」
弱々しい渾身の問いかけをしようとしたイコンの言葉を、冷たく、疑い深い魔女のような目つきと言葉でダンテは切り離す。
「・・・・・・・・・。」
再び2人の間に長い・・・・沈黙が流れる。
「ぼく、ダンテの目には、何に見えたの。」
力無く、少し怯えるような低い声で、イコンは尋ねた。
「・・・・鬼か、悪魔か、いずれも天界の住人とは似ても似つかない。」
ダンテは冷たく言葉を投げつけた。
再び長い沈黙。イコンの表情は、もうぐしゃぐしゃで読みとれない。
必死に笑顔で繕おうとするが、複雑な感情が入り乱れ、顔は暗くこわばっていた。
ずっと長い時間が経って、イコンは小さくお辞儀をして、ダンテに背を向けた。
・・・と、その瞬間ダンテは重大な事実に気づく。
「あ・・・待て。その・・・、お前どこへ行く気だ・・。」
罰が悪そうにうわずった声でダンテはイコンに尋ねる。
「・・・・天界。でも大丈夫、もう2度と会うことはないよ。」
後ろを向いたまま振り返らずにそう呟いたイコンの小さな丸い背中を見て、ダンテはもうひとつ、重大なことを思い出す。
”ーー2度と・・・会わない。”
「・・・お前、そういえば存在が希薄になって・・・」
ダンテが言い終わらないうちに、イコンは強い閃光を放った。
その光に視界を眩まされたダンテ。
どうにか状況を確認しようと辺りを見回した時にはイコンの姿はどこにもなかった。
ダンテは少し不安になった。
・・そうだ、魔界に赴く前、イコンの存在は希薄になっていた。
イコンは放っておいても、もうすぐ死ぬということだったとしたら、天界がイコンに何かを施したせいで、イコンはあんな姿に・・・・。
いや、考え過ぎか、何なんだ、色々なことが腑に落ちない。
天界を疑うなど俺らしくもない。だが・・・・。
なんだ、この違和感は。
俺はまさか、あの鬼の姿のイコンを、まだ信じていたいのか・・・。
「いた、見つけた、まだ死んでない。」
油断をしていたダンテは、あっという間に背後をとられていた。
この気配は間違いなく・・・・!
「天使発見。あなたね。金髪、ありがちなウェーブ。
あのグズな半天使のみじめな弟サン♥
見つけたわ。」
「だ・・・・」
ダンテは素早く振り返り攻撃を仕掛けようとした。
気配から、敵はたった1体の悪魔だと推測できたからだ。
だが・・・
「はい、おわり。」
そのたった1体の悪魔から放たれた攻撃に、ダンテは一瞬で呑み込まれてしまう。
「ダハーカも乙なことするわ・・。」
悪魔はダンテを黒いもので呑み込んだ後、姿を消した。
後には、幾重にも折り重なった天使と悪魔の骸だけが、そこで起こった惨事の大きさを虚しく伝えていた。
魔界、どんな絶大なる光も闇に吸収される世界。
魔界、阿鼻叫喚と笑い声が木霊する世界。
この暗黒世界とは対照的な、光と慈愛満ちる天界で、
間もなく衝撃的な事実が伝えられようとしていた。
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