[8]狂想ドデカフォニー(page2)
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2人用テントとはいえ、詰めればなんとか、4人は入れそうな気も・・・しなくはない。
結局、3人ずつ、見張りとテント内で休む天使を入れ替えながら過ごすこととなった。
あらかじめこの世界の通貨に似せた貨幣は天界で拵えてあったのだが、
まさかモノを買う場所が無いほどに荒んでいるとは予測出来なかった。
しかも、天界にいる時のように、常にエネルギーを供給出来ないので、どんどん窶れていく。
代わりのエネルギーを探そうにも、この世界には天使にエネルギーを与えられるだけの高尚なものは見当たらない。
天使の兵として見張りをした経験は何度かあるが、
ここまで疲弊し、休んだ気がしない時間を過ごしたのは初めてだ。
疲れが抜けない。あちこちが鈍く痛むような気がする。
まあそれも、俺だけのことではない。
とっとと安定装置を見つけて帰ればいいだけのこと。
上級天使から頂いた治癒の羽は俺が持っているのだ。
責任を持って、迅速に片を付けなければならない。
そうしてこそ、俺の天使としての出世も見込めるというもの。
一刻も早く、上級天使にならねば。
ルーミネイト様に近づかなければ。
そして・・・・。
俺の、秘密を・・・。
「ダンテーーーー。」
強い決心をしかかっていたところ、タイミングを見計らったかのように横槍が入る。
「見張り交代です。明日に備えて休んでください。」
思わず溜息が漏れた。
こいつはいつもこうだ。肝心な時に邪魔をする。
俺の悩みや願いなどお構いなしといった風だ。
俺の複雑な懊悩など想像もしていないし理解も出来ないだろう。
・・まあ、どうでもいいことだ、とっとと休もう。
半天使にいちいち苛立ちを覚えるだけ時間の無駄だ。
俺はなるべく体を折り畳んでテントに3人の天使が入れるようにした。
違和感がある。なにもかも。
ゴツゴツとした冷たい地面の感覚。湿気を含んで劣化した妙なテントの臭い。他の天使と空間を同じくして休むこと。
まるで人間のようだ。
人間はこんな窮屈で息苦しい生活をいつもしているのだろうか・・。
とても窮屈でならない。
しかし、無理矢理にでも寝なくては。俺たちがこの異界で活動するために用意してもらった体が保たない。*
色々と考え事をしていたはずが、気づけば朝になっていた。
天界の光とは違う鋭い光が、容赦なく俺の神経を刺激する。
そして何か妙な音も聞こえた。
もう・・・朝か。
それにしても辺りがやけに騒々しい、昨晩眠りに就く時は人一人見当たらなかったが、
このテントの持ち主が帰って来たのだろうか?
そう思い、すっとテントの隙間から外を窺うと、そこには想像だにしない光景が広がっていた。
なんと、見張りだったヴァイオレットとソッテとローザが兵士らしき銀の甲冑を纏った連中に捕らえられていた。
一瞬思考が停止した。
今出ていけば捕まる。相手は多勢に無勢。
しかも俺たち天使はこの世界で思うように力が使えない。
・・かといって、どうしろというのだ?
テントに入ったままでも同じ事。
いや、とにかく今寝ているテント内のりんごとアルベにもこの窮地を知らせなければ!
俺は瞬時にテントにいる2人を起こしてこの事を伝える。
なるべく悟られないよう、小さな声で。
外はざわついている。
ローザたちを捕らえた兵士たちの甲冑の擦れる音が不気味に辺りに響く。
俺は急速に鼓動が高鳴っているのをなるべく静かな呼吸で抑えようとする。
りんごはすぐさま何か魔法を発動させようと準備に入る。
アルベもエネルギーを溜め始めた。
俺は外の様子を窺い、戦略を立てる。
相手はここから見える分だと12~15人。
今はヴァイオレットの両手を縄で縛っているところだ。
数人の兵士がこちらのテントに注意を向けている、が、あとは捕らえた天使の方向を向いている。
俺は静かに数を唱えた。
3・・・2・・・・・・・・1!
その瞬間、3人のテント内にいた天使がばらばらに外に飛び出る。
テントの入り口はとても狭い。
ゆえにテントごとひっくり返し瞬時に三方向からばらばらに飛び出した。
テントに注意を向けていた数人の兵士たちは、3人同時にばらばらの方向へ飛び出したため、一気に注意がばらけた。
りんごとアルベは端から兵を切り崩しにかかり、俺は回り込んで後ろから兵を倒そうとした。
・・・が、なんたることだろう。
・・・・奥に別の兵士たちがいたことに、
俺は気づけなかった・・・。
潜んでいた兵士たちから距離の近かったりんごとアルベは不意打ちをくらって捕まり、
距離がわずかに開いていた俺は瞬時に防御魔法を張って兵士たちから距離を開けた。
・・・と、その時だった、後ろの方で兵がざわつき、
兵士たちは隊列をすぐさま変更した。
・・そして、そのまま天使たちを連れて立ち去ろうとする。
兵士たちの態度の急変に俺は事態が飲み込めず狼狽し、攻撃をかけるべきか戸惑っていたところに・・
ガッ・・・!
りんごが隙をついて、特大魔法を放った。
兵士の意識が逸れた隙を突いて
ローザも、魔法で応戦する。
ヴァイオレットを助けようとローザがヴァイオレットに駆け寄った。
・・・あと数センチで、届きそうだった。
・・・その時、大きな鈍い音がした。
別の兵士が容赦もなくローザを殴り倒したのだ。
まるで、モノを扱うように。
まるでそれは、奴隷のように。
ローザの血が飛んだ。
その血は目の前にいたヴァイオレットの皮膚を掠めた。
ヴァイオレットは言葉がでなかった。
ダンテは何も出来なかった。
・・・そのままローザは連れて行かれた。
ヴァイオレットたちとともに・・。
あとに残されたのはちっぽけな影。
ダンテは呆然としていた。
どうすべきだったのか、頭が真っ白で、何も浮かばない。
ただヴァイオレットの凍り付くような瞳がダンテの心に張り付いていた。
ダンテは長いことそこに立ち尽くしていた。
四肢はコンクリートのように冷たく強ばったまま。
兵士はとっくに過ぎ去ったというのに。
動くという反応が起きなかった。
・・しかし、足元でした呻き声で、ふいに我に返った。
・・・・・なんだ?
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