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[8]狂想ドデカフォニー(page19)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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「おい、何があった?」
ヴァイオレットの奇声で、ネペが牢屋の前に駆けつけていた。

「・・ねえ、お願い、彼だけ解放してあげて。ロンバヌで拷問をうけて、心身を病んでいるの。まともな状態じゃないの。それに喋れないのよ!」
ローザの必死の懇願に、ネペは淡々と答えた。

「私も拷問はよくやるが、気がおかしくなって自殺する奴は多い。元々繊細な奴は特にな。
案外お前みたいな一見弱そうな奴の方がしぶとく生き残ったりするんだよ。」
ネペはそう言って笑っていた。
ローザの必死の訴えと、あまりの温度差があった。

ネペはそもそもこういうことに慣れていて、心身を病もうが、人が死のうが、そんなことで感情を動かされることなどないのだろうか。

ローザは辛そうに口を堅く結んで押し黙った。

そもそも、光の中で生きてきた天使にこの闇が多すぎる世界はきつすぎたのだ。


天使たちに闇が広がっていく。

「ネペ、すごく良い人だと思ったのに。こんな人だったなんて。」
アルベが小声で言った。

それを受けて、ネペが返す。
「・・ふん、良い人?私は良い人さ。悪いようにはしないという言葉通り、君たちに拷問を加えていないだろ?」

ネペだけが笑っていた。天使たちは青ざめた顔のまま、ネペの姿を見ていた。



「隊長!見つかりました!例のモノだと思われます!」
ローブの兵が慌ただしく入って来てそう告げた。

「・・・ん・・・これは。ちょうど良いタイミングじゃないか。勝利の神がイピに微笑んだな。」

「勝利の神?」
アルベがねっとりとつっかかった。

「・・・なんだ?」
ネペが少し振り向く。

「神様は誰かにだけ肩入れもしないし人を大勢殺す手助けなんて絶対にしないんだよっべーーーー!!!!!」
アルベの渾身の叫びが牢屋に木霊する。
とびっきりの大声だった。

ネペは肩で笑っていた。そのまま背を向けて何も言わず行ってしまった。


天使たちに再び暗い雰囲気が漂う。

「かみさま・・・そう、かみさま。」
ローザが何かぽつり、ぽつりと呟いている。


「私たちは、神さまとともに在って、神さまの代行者として地上に光をもたらす存在。」

ローザが独り言のように言葉を続けている。

「神さまがいつも光をくれるから、アルベは生きて、力が使える。アルベが楽しいと、神さまと同調して、よりたくさんの光をもらえる。」
アルベがローザに続いた。

「神・・・?神か。天使でいる時は当たり前のように共にいるような存在だったが、この世に来て神から切り離されたように感じていた。」
ダンテもそれに続く。

「あたしたちは天使〜天使なんだよ!」

「天使、神、ひどく懐かしい言葉に思えるな。」

アルベは無理矢理力を取り戻そうと頑張っていた。

ダンテも、力無く俯きながらも、何か自分に言い聞かせようといている。

「じゃ、アルベから行きまーす!
アルベは弓矢と飛行の天使、みんなを楽しく、円満に、たくさん笑顔にする天使〜!
アルベがいれば、出来ないことも出来る。
どんな困難な道だって開ける。アルベの魔法は光の魔法。アルベの力は命を生かす力。」

「俺は・・・。
俺は高潔にして至高の純天使。ルーミネイト様のようになる。心に潜む小さな悪を焼き付くし、昇華する。
完全なる美と英知で、魔界行きの大罪人も天に昇らせる。」

「私・・・。
私は・・・・、ローザ。慈悲の天使。どんな罪を犯しても、私はすべて許すわ。そして過ちを気づかせる。
どんな悪も慈愛の前には無力なの。だって慈悲の心はすべてを包み込むんだもの。
悪は小さな子供。慈悲はどんな子供も包み込んで癒して素晴らしいものに変えるのよ。」


それぞれの天使が自分の中の光を口にしたことで、天使たちが輝きだした。
プラスの言葉はプラスを呼び、天使たちにどんどん希望が戻ってくる。

天使たちは自分たちが天使だということを忘れかけていた。

しかしそう、私たちは他でもない天使。
あの冷徹なネペも、こんな荒廃した世界も、過去何千、何万もの人の過ちと営みを見てきた。支えてきた。癒してきた。

そう私たちは天使。

不可能など無い。

私たちは神から無限の力と英知を与えられた天使なのだから。

天使たちが自分を取り戻すにつれて、どんどん光が強くなっていく。

「ねえ、こわそう、この牢屋、今なら出来るよ。」
アルベがそう言う。

「そうね、私もそう思う。」

「やろう。絶対に、生きて帰るぞ!!」

3人のパワーが重なりあった。

それはこの異界に来て初めて見る、天使たちの神々しい光だった。

牢屋の扉は優しく光になって消えてゆく。

「これからは、もっと光の強い言葉を唱えよう。天使たちの力が強まるように!」
アルベの提案にローザとダンテが力強く頷いた。

ふと、隅に横たわったままのヴァイオレットに気づく。
「・・・・ふぅ、しかたない。俺が背負うか。」
「そっりゃ〜ダンテが気絶させたんだから〜」

アルベが楽しそうにくるっと回って言った。
いつものアルベが戻ってきた。

「みんなで安定装置を取り戻して、天界へ帰りましょ!」
ローザが力強くそう言う。

「おーーーーー!!」
天使たちは意気投合した。


「・・・・それにしても、ここがどこだかわかんないね。」
アルベがあちらこちらを行ったり来たりして、窓を探している。

「というか、さっきから若干揺れてないか?」
「船とか、何か乗り物の中なのかも・・・」
「船じゃないよー揺れが小刻みすぎるからーー車みたいなのだ!きっと!」

アルベがちょこちょこと当たりを探ってつっついている。


「・・・ん?これナニかなーー??」
アルベが壁にある取っ手のようなものを回した。

・・・すると、


ガシャン・・・。真っ暗な牢屋があった部屋に、急に光が射し込む。

「・・・あ!窓はっけーーーーん!お主、すごいぞよ!んーー!それほどでもん♪」
アルベは完全に調子を取り戻していた。

ダンテとローザが近寄ると、窓から外が見える。

どうやら本当に移動しているようだ。しかも窓を見る限り、ここはなかなかの高さがあるようだ。


「あー、元気でてきた。げんきげんき〜〜〜ぃ♪
天界にいるのとあんま変わんないくらい元気かもぉ〜?」
アルベがふざけて踊っている。

「でも・・そうね、なんか天界の香りがするような・・」
ローザが不思議そうに言った。


「天使の力を取り戻したから天界のエネルギーが近くに感じられているのか?」

「・・そんな気もするけど・・・そうじゃないような・・・?」
ダンテの問いにローザもよくわからないといった風だ。


「・・・でも移動中なら、どうやって逃げる?そもそもこれ、どこへ向かってるのかしら・・?」
ローザがダンテに尋ねた。

ダンテは胸の内ポケットに入れていた小袋からコンパスを取り出す。

「・・・・西だ。西へ向かってる。」
「方角じゃなくて〜位置が知りたいの〜だよ!わっはっは!」
アルベが無駄に元気になり、ローザはくすくすと笑った。

「でもイピの西っていったら、私たちの目的地、ヤンゴンに近づいてるってことじゃない?」

「わ〜〜お!!助かる〜〜〜楽だ楽〜〜〜らくだ〜〜〜〜ぴゃおんっ!にはっははは〜!」
「・・・なんだそれは。」
「ラクダのモノマネさー見てわかんないかね?・・・ぴゃおんっ」
「・・・・ふぅ。」
アルベの無駄なギャグは颯爽と無視された。


「・・・もしかして、牢屋を壊さずに、大人しく捕まったフリをしてれば、ヤンゴンの近くまで連れて行ってもらえたかも・・・」
ローザが言いにくそうにダンテの方を見ている。

「・・・・まあ、壊してしまったものは仕方がない。とりあえずしばらく様子を見て、敵が来たら伸しておくか。」

「え〜〜、逃げなくていいのかネ〜んーーでもらくちんはサイコウネーーーー♪♪」
アルベが無駄にくるくる回っている。

あれから数時間は経ったと思うが、特にダンテたちのいる部屋に兵が来ることは無かった。


「・・・な、なんかつよい・・・つよい。神様の力・・!つよくなってる!」
アルベが電波でも捉えたかのように、何かに敏感に反応している。

「・・・そうね、私も感じるわ。さっきより強くなってる。」

「・・・まさか、安定装置か?安定装置に近づいてるんじゃないのか?」
その言葉でアルベとローザの視線がダンテに集まる。

「そーーうか!安定装置!なんと!安定装置行きのバスがあったなんてアルベってばらくち〜〜〜〜ん。」

「でも、安定装置はヤンゴンが持ってるんじゃ・・」
ローザが不安そうに言う。
「ヤンゴンとイピの戦闘の最前線に向かっているのかもしれないな。」
ダンテは窓から進行方向を眺めた。

ガタッ。

突然、部屋の外からの物音で、天使たちは一気に緊張する。

見たところ、この部屋の出口は一カ所で、そのほかは顔が出せない程のこの小さな小窓くらいしか見当たらない。



何度か物音がした後、部屋の扉がゆっくりと開いた。
中からは数人のローブの兵とネペが姿を現す。


「・・これはこれは。」
ネペは牢屋から脱出している天使たちを見て少し驚いたようだった。
「ふふ、相手をしてやれなくてすまない。少し手が放せなくてな。」

相変わらずネペからは余裕の色が見える。

「あたしたち、どこに向かってんのー?ネペネエさん?」
アルベが両手を頭の後ろで組みながら目線を下げて聞いた。

「ヤンゴン兵との交戦地だよ。君たちならあのヤンゴン共から無敵になった兵士の力の源を取り戻せるんじゃないか?」

「・・・力の源?・・・何のことだ?」
ダンテがネペに鎌を掛ける。

「情報は全部、イピの諜報兵から入手済みだよ。しらばっくれる必要なんてないさ。・・・安定装置、と言ったかな?」

もしかしてヴァイオレットが拷問でロンバヌ兵に話したことがイピの諜報員に漏れたのだろうか?

そういえば、ロンバヌ兵に捕まったのも、イピの諜報員を疑われたからに他ならない。
恐らくロンバヌも自国の情報がイピに流れていることを察知していたのだ。


「まぁ戦地に着くまで気楽にしているといい。それと、逃げようなどとは努々思わないことだな。」

そういうと、ネペは袋から何か紅いものと青いものを取り出して、目の前でばら撒いて見せた。

一番近くでそれを見たダンテの目が凍り付く。

ネペはそのまま部屋を出て行ってしまった。
ローブの兵もそれに続く。

扉の音が閉まったのを確認し、天使たちが話しはじめた。

「・・・え?さっきの・・って、なに?」
窓の近くにいたアルベがネペがばらまいたものを確認する為に近寄っていく。

「・・・・・・・。」
ダンテは黙っている。ローザも言葉が出ない。

「うん・・・?これって・・・・髪の毛じゃ・・・・。」

「りんごとソッテのだわ・・、イピ軍に何かされたんじゃ・・・」
ローザの目に恐怖が宿る。




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