[8]狂想ドデカフォニー(page20)
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ダンテは黙って思案していた。
この髪の毛は、間違いなくりんごとソッテのものだろうが、
問題は、あいつらが生きているのか死んでいるのか・・。
ネペには誰かを捜す魔法が使えた。それを使って奴らを捜し出したのかもしれない。
奴らが生きているのなら一刻も助け出さねばならないが、そうでないなら・・・。
「ソッテとりんごを助けなきゃ!」
アルベがダンテの前へずいと乗りだしダンテを真っ直ぐ見つめて訴えている。
・・・・どちらにせよこいつらが言うことを聞くわけがないか。
「・・・でも、どこにいるのかが問題よねぇ・・。」
ローザが窓から外を見回している。
「今なら探したい人の髪の毛があるし~ローザと力を合わせれば、この建物内にいるかどうかくらいはわかるかも。」
「うふ、やってみる?」
ローザとアルベは手をつないで、ソッテとりんごの髪の毛を取り囲んだ。
髪の毛から出る天使の波動が彼らの居場所を捜すのに大いに役立つ。
意識を建物の色んな場所へ飛ばしてみるものの、髪の毛と同じ波動は見つからない。
それでもローザとアルベは根気よく探す。
やがて集中力が切れてアルベとローザはへたり込んだ。
「あーー、いないようー。」
「・・・見つからないわね・・・。」
そもそも既にこの世に存在しないなら、いくら探してもどこにも居場所など感知出来ないと思うが・・・。
一瞬そう言おうとして、ダンテは口を噤んだ。
そういえば、ネペらはどうやってソッテとりんごを探し出したのか。
俺たち天使の波動を辿って見つけたのなら、ソッテとりんごは生きている可能性が高いし、手当たり次第に捜索して物理的に探し出したのだとしたら、生きていない可能性も拭えない。
もしくはまた別の方法で、ネペは死んだ者も探し出せるという可能性だってある。
「・・・おーーーーい!」
気が付くとアルベが無駄にダンテの目の前で手をばたばたさせていた。
ダンテがウザそうにしかめっ面をしながら瞬時に下がってアルベの手を避ける。
「どうする?ソッテとりんご、探しに行く?」
アルベがダンテの顔を覗き込んで尋ねる。
「ソッテとりんごが人質として捕らえられてるんなら、下手に動くと殺されかねないと思うが。」
ダンテは腕組みして忙しなく動き回るアルベの前に壁を作る。
「・・そうよねぇ~~、そこが問題よねぇ~」
ローザも左手を顔に当てて顔を傾げている。
「でもさーーぁ、このままじっとしてていいの~?今よりマズい状況になったりしたら、ソッテたち助けにいけなくなるかも~」
「そうねえ・・・」
3人の結論が出ないまま時間だけが過ぎてゆく。
アルベは部屋でじっとしているのが退屈で焦れったくなったようだ。
しきりに部屋の中を探したり、部屋に1つしかない扉を開こうとしたり、窓を覗き込んで情報を得ようとしている。
が、窓は小さいうえ部屋の位置がわるいのか、あまり景色が見えない。
わかるのは、今いる建物の下に木の板らしきものが見え、そしてさらに外側に地面がのぞく。
地面からの高さからして、今いる部屋はけっこう高い位置にあるということだけだ。
後方は建物が障害物となって思うように見えないし、前方は、何か妙な武器が設置してあるせいで、こちらもあまり見えない。
ダンテたちはこれといった行動が出来ないまま、何日か日が過ぎてしまう。
途中、ダンテたちに食事を提供するためロープの兵が何度か部屋を訪れた。
アルベがこのロープ兵を倒して外に出ようとするが、ダンテはそれを制止するし、ローザも迷っていて、結局行動には移せなかった。
あの後、ヴァイオレットは目を覚まし、再び錯乱しそうになったのを、天使3人が天使の光を送り続けてどうにかこうにか落ち着かせた。
それ以降、ヴァイオレットは再び大人しくなったが、やはり一言も喋らなかった。
何日かが流れるように過ぎ、ずっとテンポよく続いていた振動がある日急に止まった。
「・・・なんだ?」
「・・ヤンゴンとイピの交戦地に着いたのかしら・・?」
「んーー??」
天使3人が窓の方へ駆け寄る。
ヴァイオレットは部屋の隅で寝ている。
程なくしてネペがローブ兵とともに姿を現した。
「さあ、着いたぞ。お手並み拝見といこうか。」
天使たちは有無を言わさず、外へ放り出された。
外に出て初めてわかったことだが、
ダンテたちが護送されていた乗り物は、巨大なゾウに似た生き物が運んでいた。
オンクという生き物だそうだ。兵たちがそう口にしていた。
オンクは巨大で、1日に長距離を移動できる優れもので、オンクの上に船のような建物を括りつけて移動していたようだ。
オンクの上の建造物から梯子を伝い地上に降りると、そこには死体が転がっていた。
「・・ひっ!!」
アルベが目を背けたその先にもまた死体が転がっている。
そこはまさに戦地。
天使たちにはキツい場所だ。
「・・・それにしても不可解だな。」
ダンテは死体をまじまじと見ながら首を捻った。
「ちょーもう無理かえりたーーーい!!」
「・・・・何が不可解なの?」
アルベは泣き言を言い、ローザは死体を直視しないようにしている。
「安定装置の力を持ってすれば、こいつらだって死なずに済んだんじゃないか?
そもそもヤンゴンの不死身の兵というが、安定装置に敵味方の区別など出来ない。
ヤンゴンだけじゃなくロンバヌ側の兵も不死身になって然るべきだ。」
「・・・そうねぇ、ここで亡くなってるのは皆ヤンゴン以外の兵士さんかしら・・。」
「この死体はイピの兵だろ。ネペと一緒にいたローブの兵と同じ紋章がついてる。」
ローザとダンテが話している横で、アルベは神に祈っていた。
その場でじっとしている天使たちの様子を見かねて、ネペが背後からやってきた。
「やあ、君たち。安定装置はヤンゴン兵が持っている。今から君たちをヤンゴン陣地へ飛ばそう。」
ネペがそう言って右手を挙げると、とても巨大な装置をイピ兵が運んでくる。
「・・・飛ばす?まさか転送魔法?!」
ダンテが敏感に反応した。
「ふふ、そうか、転送魔法。そうとも言えるな。
私がロンバヌにいる間にまさかこのランドローマが完成しているとは思わなかったよ。」
ネペ兵が運んできた巨大装置はとてつもなく大がかりで、兵士50人以上が力を合わせて滑車の上に乗せて運んできた。
「日暮れまでに安定装置を奪取して戻らなかった場合、君たちの仲間は処刑されると思っていい。」
「待て!俺たちの仲間が生きているという証拠は?」
ダンテの訴えにネペは目を閉じたまま取り合わない。
そして・・、天使たちは装置の上へ乗せられ、大勢のロープ兵が魔法を発動させる。
ーーーその時だった。
兵士に引きずられるようにして現れた、ソッテとりんごの姿が遠くに見えた。・・・見えた気がした。
ソッテは俯いて、ダンテたちに気付かない。
りんごは足を引きずりながら顔を上げようとしている。
もう少しで目が合う。いや、こちらから叫べばいい。
違う!今すぐこいつらをけちらしてソッテとりんごを助けに・・・・!!
そう思った瞬間だった。
空間が一瞬にして歪み、気付けば全く別の場所にいた。
ダンテたちはイピ軍の転送装置によって、その場から飛ばされてしまったのだ。
「あともう少しでソッテとりんごを助けられたのに!」
アルベとローザはやりきれない。
「わざと・・・、わざとだ。転送が完了するぎりぎりになって、しかも遠くのほうにソッテとりんごの姿を見せた。
俺たちがすぐさま救出出来ないように。叫ぶ時間さえ与えないように。
すべて計算尽くだ。」
ダンテも悔しさを隠しきれない。
「相手のほうがいつも上手ね・・・。」
ローザは力無くうなだれている。
「今から助けに行けば良んじゃない!」
そう言ってアルベが勢いよくどこかへ行きかけて、すぐに戻って来た。
「・・・えっと、りんごとソッテはどっちかな?」
ソッテとりんごがどこにいて、ダンテたちが今どこに立っているのか、誰にも見当がつかない。
この辺の地理もわからなければ、地図すらも持っていない。
そして髪の毛もないので、ソッテとりんごの居場所も探れない。
天使たちはいきなり行き詰まった。
「やはははははは!」
いきなり大声が聞こえてきて、天使たちはびくつきながら戦闘態勢をとる。
「何?さっきの・・・」
「声だな・・・・、向こうからだ。」
「とりあえず行ってみる?」
一行は警戒しながらなるべく静かに声の方へ向かった。
大勢の男たちの笑い声が聞こえる。
とても賑やかだ。
まるで祝杯でもあげているみたいな声だ。
「イピの馬鹿ども!本当にケッサクだったぜ!俺たちの勇姿に震え上がって声も出ねえ!!」
「相手の兵が散り散りに逃げていく様は痛快だったなー」
「んでもイピの兵もしぶといよな。妙な魔法ばっか使うし、いくらあの力があっても、あんな魔法に何度もやられるのはゴメンだぜ。」
「だけどこの守護石のお陰で、あんま痛み感じねえだろ?」
「まあ。それはそうなんだがよ。」
守護石、という言葉に最初に反応したのはダンテだった。
だがアルベとローザも何となく、それが安定装置の一部ではないかと感じていた。
「ねえ・・・もしかして、安定装置砕かれてる?」
ローザの指摘に、ダンテは頭を抱える。
「・・・まずいな。安定装置の力が分散すると、回収が面倒になるぞ。」
「でも、安定装置の欠片をヤンゴン兵1人1人が持ってるとしたら、もう手遅れかも・・・」
「めんどくさいのはなーーーいやだなーー」
アルベが人差し指をこめかみに当てて唸っている。
ダンテたちは、声の方向に近づいて様子を窺ってみることにした。
ヤンゴン兵とおぼしき大勢の男たちが、酒を酌み交わして
祝杯をあげていた。
見ただけでも数は優に千を越えそうだ。
「・・・んあ!あれっ・・・!!!!」
男たちが祝杯をあげている先に、何か見覚えのあるものが見える。
「あれは・・・安定装置じゃないのか!?」
アルベとダンテは思わず大きな声を出してしまい、ふと口を噤んだ。
・・・しかし男たちは宴会に夢中で先ほどの声に気付かれなかった。
2人はほっと肩を撫で下ろし、再び安定装置の方を見る。
「・・・さきっちょしか見えな~い」
アルベがめいっぱい背伸びしてみるが、安定装置とおぼしきものの先端がちらっと木々の隙間から見えるだけだ。
ダンテたちはヤンゴン兵を避けつつ、安定装置が見える方向を目指す。
この地域は乾燥していてところどころ地面に草の固まりが生えていて、道中アルベが何度も足を引っかけた。
前方には小さな森林があり、ロンバヌとはまた違った種類の木が生えていた。
ロンバヌに比べて葉が大きく、個性的な形のものが多い。
森林に入ると所々に兵士がいる。
何度か危うく見つかりそうになりながらも、兵士を避けて安定装置のもとへ向かうが、
ある程度歩いたところで兵士の集団がぐるっと安定装置を取り囲んでおり、それ以上は近づけない。
「・・・・どうする?」
ダンテは左手を口に当てて考えている。
ローザとアルベも兵士の方を窺いながら、何か策がないか考える。
兵士の数はこちら側にいるのが約20人くらいだろうか。
大事な安定装置を守る兵の割に、思ったより人数は少ない。
そのうえ兵士全体に緊張感が無く、欠伸をしたり、談笑している兵士もいる。
「チョロくな~い?あれなら勝てるよ!たぶん。」
アルベが元気そうに息巻いている。
「そうだな、だが、このまま突っ込んで安定装置に触れられても、安定装置とアクセスして回収する間、時間稼ぎが必要だぞ。」
「じゃあダンテがアクセスすればいいわ。私たちはがんばって兵士を抑えるから。」
ローザの提案にダンテは慎重だ。
「いくら兵士の士気が弛んでいるとはいえ、あの数相手に抑え切れるか?応援を呼ばれたらひとたまりもないぞ。
またあの森での時みたいに逃げる羽目に・・」
そう言いかけたダンテの前で、ローザが人差し指を口に当てて、大丈夫、という風に示して見せる。
「今は安定装置がそばにあるんだもの、勝てるわ!」
ローザはにっこり微笑んでそう言った。
その優しく力強い笑みを見て、ダンテも少し表情を緩めた。
ローザが念のため、ダンテとアルベ、ヴァイオレットに保護魔法をかける。
そして・・・。
「・・・いくぞ!」
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