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[9]2つが1つにもどる時(page1)

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2つが1つにもどる時 《もくじ》
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最初会ったときは、砂塵の一粒にすぎない、
取るに足らない存在だと思った。


何をしても愚図で、何も出来ない。

誰よりも弱くて、誰よりも目立たない。

誰もアイツのことを記憶の片隅にすら留めていなかった。


アイツはすぐイジケて、すぐに諦めた。
ほんとうにくだらなくて、世界は何故、こんなやつを生んだのか、と思ったくらいだ。

何をやらせても凡人より劣っていた。

それを誰よりもわかっている本人の性格も
それ相応にくだらなかった。

うじうじして、他人の足を引っ張る存在。

すぐに愚痴を言って、誰からも煙たがられる存在。

誰もアイツの友達になろうなんて奴はいなかった。



ーーあるときだった。
天界で大きな事件が起こった。

誰も知らない間にとある天界のゲートが魔界とつながって
悪魔たちが進入し、奴らの小細工のせいで
天界が大波乱に見舞われた。


悪魔たちは巧妙に計画を練っていたらしく、
奴らの策略に嵌まり、
天使たちは見事に疑心暗鬼に陥った。


だがどうして、悪魔たちが天界に入って来られたのか?


・・・・その時初めて、アイツの名が出た。

誰もアイツのことなど知らなかった。

だが目撃者がいた。

アイツの名は、ヴァイオレットと言った。


ーーー半天使、だった。


誰からも意識にすら上らない、取るに足らない存在だった半天使ヴァイオレットという存在は、
あの事件から一気に、一躍有名になった。




目撃者は1人の天使だった、皆が、天使である目撃者の言うことを、何の疑いもなく信じた。

半天使がこの天界にいたからこうなった。


ー天使たちの半天使排斥運動が一気に勃発した。



天界にいたほかの半天使はこの状況に耐え切れず天界と魔界の狭間にある冥界へ逃げていった。


半天使ヴァイオレットは殺されるかもしれなかった。


というより、半天使の処刑計画は順調に進められた。


だが、たった1人の天使がそれに反対した。



半天使の弟であるダンテ?・・・いいや、


半天使とは何の縁もゆかりもなかった、

ルーミネイトという天使だ。




ルーミネイトは人間界を守護するイダーラ(部門)のローザに目を付け、
彼女に半天使の保護を命じた。


彼女は命令通り、半天使に近づき、彼の様子を密かにルーミネイトに逐一報告した。



紆余曲折の末、何とか半天使の処刑計画は中止された。


だがそれははじまりだった。


この事件をきっかけに、半天使ヴァイオレットの存在は天使たちの記憶に深く刻まれることとなり、

彼は表へ出られなくなった。


彼は軟禁状態で長い長い時を過ごすこととなった。

熱りが冷めた頃、ルーミネイトが彼の様子を窺うと、彼の顔は猜疑心と、恐怖心で満ちていた。

半天使を外へ出す名目として、ルーミネイトは半天使らしい役目を命じた。
それが、魔界と天界を行き来する任務だった。


そして天使たちの不信感を拭うため、
ローザは半天使の監視役として、ヴァイオレットの近くにいることとなった。



何も知らない半天使は、穏やかで太陽のようなローザの存在に、さぞかし心を奪われたことだろう。



これまで自分を、ひとつの存在として見てくれる天使なんていなかったから。


ふつうの天使として、いや半天使として、ふつうに接してくれる天使なんていなかったから。


半天使の心に一筋の光が射した。

半天使に、決意が生まれた。


半天使は、この天界で生きようと、そう決めた。


そして半天使は天界に利用されていった。


危険な任務は全部半天使に投げつけられた。

天界で起こった問題の原因も全部半天使のせいにされた。

それでも半天使は笑って耐えた。


アイツは、耐える、そのことだけはすごかった。

耐えて、耐えて、どんなことをされても、笑って耐えていた。


でもそれは、ローザという光があったからこそだった。


浄化に伴う激痛。死の危険が伴う任務の数々。
半ば使い捨てのように扱われる日々。
無実の罪をかけられる日々。


でもいつもそこには、ローザがいた。





・・・・・あるとき、


アイツは知ってしまったんだ。


ローザが、ルーミネイトに命じられて、ヴァイオレットに近づいたことを。


その瞬間、アイツの中にあった、心の糸が、プツンと、引き千切られた。


そうして、アイツは姿を消した。



次に見たとき、アイツは半天使では無くなっていた。

猛獣のように悪魔化した奴は、そこら中の天使を喰いちぎって、引き裂いた。
どんな言葉を持ってしても形状しがたい、あまりに惨すぎる光景だった。


そして奴は、・・我に返った。

自分のしでかしたことを思い知った、
その罪を、その両目で、目の当たりにした。


その瞬間、奴は嘆き悲しみ、苦しみ、深い深い闇へと堕ちていった。


一旦は人間として人間界に追放し、記憶も封じ、力も封じた、そのつもりだった。

だがあの時の深い苦しみと絶望と罪の意識は、奴を魔王へと覚醒させた。


奴は誰よりも苦しんでいた。

自分の過去、ローザの裏切り、そして自分のしでかした罪の重さに。



―――奴は魔王となって、また罪を増やした。
だがもう奴に正気など残っていなかった。



新たな魔界が生まれる、誰もがそう思った。

・・・・なのに、





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