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[8]狂想ドデカフォニー(page18)

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狂想ドデカフォニー 《もくじ》
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「・・・やあ、また会ったな。」


背後にネペがいた。

「・・・・どういうつもりだ。」
ダンテがネペを睨みつける。

ネペはそれに答えない。少し微笑み、こう告げた。

「私と来てくれないか。悪いようにはしない。」

「・・・断ったら?」

「・・わかっているだろ?」

ネペとダンテの睨み合いが続く。
ダンテはアルベの背中をトン、と叩く。

アルベはそれに気づき、ダンテの方をちらっと見た。

ローザもその気配に気づく。

「いけっっ!!」
ダンテがとびっきりの大魔法を出し右半分を取り囲んでいた敵の体勢を崩す。

同時にアルベも魔法で左半分を蹴散らした。


・・・・・はずだった。


「・・・んなあっっ・・!!!!?」
アルベが叫んだ先には、無傷のローブ集団が。
彼らは素早く不気味にゆらりと体勢を立て直した。


「こいつら何~~~!?」

「魔法・・そうだった、イピは魔術に長けた国・・。」

ならばと、ダンテは腰に携えていた剣を取り出し、ローブの集団に切りかかる。

彼らの素早く紡ぐ魔法をローザが後ろから無効化してくれている。

そのお陰もあって、何撃かローブの人物に命中した。

突然始まった戦闘を見て、村の人が囁く。

「・・・なんだ、あれ!?」
「見てみなよあの模様。イピの精鋭兵だって。」
「精鋭?なんでそんなのがここに・・精鋭兵はみなヤンゴンに行ってるんじゃないのか?」
「知らないわよ、あの兵が取り囲んでる人たち、見慣れない肌の色だし、他国の人じゃない?ヤンゴンの兵士とかかも。」
「なるほど・・・」


村の人の情報を聞き、ダンテは間合いを取った。

「イピ精鋭兵だと?それが俺たちに何の用なんだ?」
ネペがすっと左手を挙げると、精鋭兵が攻撃を中断する。

「・・・ここで話すのははばかられる。村の外へ移動するのはどうだ?」
ネペの提案にダンテは皮肉めいた笑いで答える。
「人目のつかないところなら、何をするのも自由だからな。」

ダンテはそう言いつつも、ネペの提案に応じた。


村からだいぶ外れたところで、ネペと兵士たち、天使たちは足を止めた。

「お前たちイピの兵は民の目がある以上非道なことは出来ないだろうが、ここなら自由だ。さあ答えてもらおうか。」
ダンテはそう切り出した。

ネペは不気味に笑い声をあげてから、ゆっくりと口を開いた。

「君たちはロンバヌに拉致されたという天使とかいう種族だな。」

ネペの驚くべき指摘に、天使たちは目を丸くしたまま言葉を返せない。

「やたらと魔力の高い輩がいるから念のため同行してみたら、なんとお宝発見、というわけだな。」
ネペは不気味に笑みを浮かべていた。

ネペがアズロス村の手前で姿を消したのは、味方の兵を呼びに行くためだったのだと、ダンテは今頃気づいた。

そして天使はネペの案内のまま、まんまとアズロスへ赴き、しかも宿で一泊した。

ネペの罠にまんまと填められたのだ。

警戒していたつもりが、そこまで考えが及ばなかった。

ダンテは悔しそうに、ネペを睨みつけていた。

「おっと、そう熱り立つな。別に取って食おうってんじゃない。」
ネペは余裕の表情で、両手をあげ、敵対心が無い素振りをした。

天使たちは臨戦態勢のまま、姿勢を崩さない。


「・・・・不死身の軍団を・・・知っているな?」
ネペはゆっくりと、そう言った。

天使たちは息をのんだ。


「イピはあれが欲しいんだ。わかるだろ?不死身の軍団さ。

・・・君たちはアレについて、何か・・・知っているだろ?」

ネペは思わせぶりに、ゆっくりと言葉を作る。

天使たちは顔を歪めたまま黙っている。

「まあ、そういうことだから、一緒に来てもらおう。」
ネペがそう言うと、7~8名だったローブの集団の背後から、さらに多くのローブの人物が姿を現した。

「援軍到着しました。」
ローブの一人が言う。

「・・・ご苦労。」
ネペが改まってダンテたちの顔を見る。

「・・・さて、どうする、大人しく同行してくれるか?それとも反抗してみるかな?」
ネペは余裕の表情だ。
彼女は少しの間でも天使たちと同行した身、天使たちの実力は把握しているはずだ。

そのネペがこんなにも余裕を見せるというのは即ち、ネペは勝利を確信しているということだ。
そうダンテは思った。


どうせ殺されるならここで反抗するのも手段のひとつではあったが、先ほど魔法をあっさり防御されたうえ、数がゆうに50を越えていた。


ダンテは武器を地面に置いた。
アルベは納得いかなそうに臨戦態勢を崩さない。
ローザは戸惑っている。
ヴァイオレットは・・・よくわからない。

「ありがとう、助かるよ。」
ネペがそう言うが早いか、ローブの集団に一斉に魔法を放たれ天使たちは眠らされてしまった。

ローザが防御壁を作り、アルベが応戦したものの、数の力で瞬時に決着がついてしまった。

次に気がついた時には冷たい地面の上にいた。

「あーーーん!!ここ覚えがあるぅ~~!!」
目覚めた瞬間、アルベが思い切り叫びながら嘆いている。
その大声で、ダンテが目覚めた。
アルベがすかさず、ダンテを責め立てる。
「なんで、な~~~~ん~~~で~~~武器捨てたの~~~???戦いやめちゃったのおおお~~~??
アルベたちがロンバヌで捕まって、どんなにひどい目に遭ったか知らないでしょ~~~??」
アルベがすごく怒りながらダンテを小突く。

「・・・そうね・・。」
ローザはとても悲しそうだ。

そう、ダンテにはわからないのだ、兵士に捕まり、拷問を受けた苦しみがどれほどのものかなど。

だからこそダンテだけが、簡単に武器を置いた。
ほかの天使は、また拷問を受けるくらいならあの場で刺し違えようとしていたかもしれないのに。


でもそんなアルベやローザの気持ちが、ダンテにはわからなかった。


そして明らかにヴァイオレットの様子がおかしかった。

その異変に気づいたローザがヴァイオレットに駆け寄る。

「大丈夫!?しっかりしてヴァイオレット!」

ヴァイオレットの体は小刻みに震え、波を描くように揺れていた。

「大丈夫、大丈夫だから、今度は私が守るから!もうヴァイオレットだけに辛い思いさせたりしないわ!」

だが、そんなローザの言葉も、ヴァイオレットには届かないようだった。

ヴァイオレットはしばらく痙攣し、何か奇声を発し始めた。

「や・・・やばい、やばいよ・・・!」
あまりに異様な状況にアルベが冷静さを失っている。

「オエッ・・・!ガハッッ・・・・!!」

それは見るも無惨な光景だった。

ヴァイオレットは奇声を発し暴れに暴れ、嘔吐した。

ヴァイオレットの獣のような悪霊ののたうち回るような光景に、天使たちは恐怖の色を隠せない。


「・・・あっ・・・ア・・・ア・・ア・アアアア・・・ア・ア・・・・・ア・ア・ア・………亜」

また変な声がヴァイオレットから聞こえる。

その光景を見て、アルベが牢の隅で怯えている。


ローザはヴァイオレットの背中を撫でたり声をかけたりしているが、効果があるようには思えない。


「うぎゃーーーーーーーーーーああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


ヴァイオレットの地鳴りするような狂った断末魔に、アルベは必死で耳を押さえて縮こまっている。



そんなヴァイオレットに、ゆっくりと影がさす。
「・・・ダンテ?」
ヴァイオレットの横にいたローザが、ダンテを見上げる。

ダンテは黙って、ヴァイオレットの胸ぐらを掴んだ。

その時、一瞬ヴァイオレットの目を見てしまった。

我を失いかけたダンテは必死で自分を制し、ヴァイオレットに一撃を入れる。

「げはっっっっっ・・・・・・・・」


ヴァイオレットは力無く地面に伏した。


「・・・・な、何・・・何をしたの・・!??」
ローザが悲鳴に近い声色で、ヴァイオレットに駆け寄った。


「・・・気絶させただけ・・だ。・・・うっ・・」

ダンテは左手で顔を覆い、賢明に首を振っている。

「・・・ちょっとダンテ?ダンテまでどうしちゃったの?」

「・・・・・。あいつのあの目。見たこともない目つきだった。俺としたことが、魔に・・・呑まれそうになった。」

そう言って両手で顔を覆うダンテ。
今度はダンテが苦しみ始めた。

何度も顔を横に振っている。必死で何かを振り解こうとしているようだ。


「ヴァイオレットはあの時、確かに死のうとした。きっととんでもないことが拷問の時行われたのよ・・・!
私でさえ思い出したくもない出来事だもの。」

ローザは悲しげに訴えた。

アルベは牢屋の隅で、両耳を押さえたまま縮こまって動かない。

光を力の源とし、光を運び、導く天使たちが、今やこの様だ。

天使の光の力もどんどん失われている。


この暗闇の世界で、天使とはかくも無力だったのだろうか。




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