[9]2つが1つにもどる時(page12)
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一瞬そう思ったが、やめようと思った。
奇妙なのは空気だけじゃない、この祭壇には何かある。
妙なことをすると、その力が何億倍にも増幅される、そんな気がした。
ぼくは淡々と儀式を始めた。
念入りに仕込んでおいた魔法。円形の陣。魔界や天界の晶石。
細かな呪文に、エネルギーの変化、祭壇の持つ調べに合わせてこちらも発するエネルギーを同調させていく。
こういうのは歌天使の仕事なのに・・・。
と、一瞬雑念が浮かびそうになってそれを追いやる。
儀式が失敗すると、ほかでもないぼくにすべてのエネルギーがかかってくる。
悪いエネルギーも良いエネルギーも、すべてだ。
そう、こういうのはいつでも命がけ。
だから、集中しないと・・・。
それからどのくらいの時が流れたかだなんて、ぼくには想像もつかなかったけど、
ただただ蓄積される疲労感が、時間の経過を示している。
ぼくは気づけば、一つ目の調べを唱え終えた。
もう大分疲れが来ていた。でも不思議と、周りの悪魔たちの邪念や罵声が聞こえて来ない。
儀式に集中しやすくなった。
それからまただいぶ長い時が流れて、
二つ目も、終えた、声が、少し、枯れ始めていた。
・・・まだ、あと一つ、残ってる。
体の感覚が麻痺してきた・・・。
でも、倒れるわけにはいかない・・・。
あと一つの調べで、儀式は完成するのだから・・。
ぼくが重くなった口を無理やり開いて三つ目の調べを唱え始めたときだった。
突如としてぼくの頭上にトパーズのような大きな光の固まりが現れて、
ぼくめがけてそれは落ちてきた!
ぼくは今逃げたとしても、逃げなかったとしても、!
(無事ではいられない・・・・!!!!)
どうすることも出来ず、ただ呪文を唱え続けるしかなかった。
その光の塊はぼく目がけて落ちた。
祭壇も何もかも見えなくなって、ぼくはそれでもただひたすらに、呪文を唱えた。
誰かの声が聞こえた気がしたけど、集中していてよくわからなかった。
朦朧としていたせいか、微かに、ルーミネイト様とアスタナさんの姿が見えた気がした。
ぼくを守ってくれたの・・・かな?それとも・・・。
死んだか、死んでないのか、あの世か、どこにいるのか、もうなにもわからなくても、ぼくはただひたすら、どこまでも儀式を続行した。
そして・・・。
目を開けたとき、ぼくは妙な歓声に包まれていた。
光の渦が、魔界を覆っていた。妙な光景だった。
でもその光は天界の光とも違う、奇妙で穏やかな光だった。
その奇妙な光の渦に吸い込まれるように、大勢の悪魔がどこかへ飛んでいく。
光に向かって悪魔が飛んでいくだなんて、本当に不思議な光景で、
ぼくは夢の中にいるのかもしれないと、思ったくらいだ。
天を仰いで惚けているぼくに、突然声が飛んできた。
「あんがとな。」
その悪魔はそう言って、ほかの悪魔と同じように、光に吸い込まれていった。
いったい、あの先に何が・・・。
「ならぬ!」
ぴしゃりと、その言葉がぼくを我に返らせた。
「え・・?な、なにが・・?」
「あの中に入ると元に戻って来られなくなるぞ!」
セイウチと蓑虫を掛け合わせたような姿の悪魔が、そこに立っていた。
「え、じゃ、じゃあなんでみんなあの中へ・・?」
「それは・・。お前はまだ何も、思い出せていないのだな!?」
・・・また言われた、どういう、、ことなんだ?
思い出せたなら、すべての意味が、わかるっていうのか?
何がどうなって・・・どうしてぼくだけ。
その時だった、ふとダンテの姿が頭を過った。
そうだった、もうぼくは悪魔たちに監視されていない、ダンテのところへ行かなくては・・!
・・・このときぼくは何も知らなかったんだ。
あの光の先で、何が行われていたのかも、ぼくが中央祭壇で、何を解放してしまったのかも。
ぼくの、「無知」が、後に地獄を生むことになるだなんて。
ぼくは何も、知らなかったから・・・。
それから急いでフラフラの体を引きずりながら引き返した。
祭壇まで連れてこられたときの記憶を手繰りながら。
ぼくはダンテのところに向かっていたはず・・。だったんだ。
なのに。・・・なのに。
突然空間が歪んだ。
ぼくは何かに捕らえられたかのように、その空間に引きずり込まれた。
―――――白い白い、大地。
眩しくて、ぼくは視界がぼやけていたが、虚ろな意識がはっきりとするにつれ、ぼくの意識は現実に引き戻された。
そこには夥しいほどの死体があった。
みんないた。
見知った顔が、そこにはあった。
みんな躯(むくろ)となっていた。
・・・なんだここは、夢?
そう思い、死体に触れてみる、生々しい感触。そしてまだ少し、あたたかい。
こ・・・れって・・・??
鼻を突く臭い、おぞましい地面。
たくさんの、死体。
目眩がしてきた。これは夢だって、誰か、助けて・・。
「なにを言ってるんだ。これは、あなたが殺した天使や悪魔たちじゃないか。」
声が、した、どこからか。声の主を探して、慌てて辺りを見渡した。
いた。誰かが遠くに。いる。
でもどこかで見たような・・・。
「ぼくが殺した?ぼくは誰も殺してない・・。」
「そんなことないよ、じゃあこれは一体誰がやったの?」
遠くにいた少年が少し近寄って辺りに散らばった死体を指さした、
「それは・・・」
「キミは錯乱して何も覚えてませんでしたって言うのかな?今回も?もう何人も、殺してるじゃない?」
「や、やめて・・・」
なにかとても黒いものを思い出しそうになった、こわい、制御しきれない、黒くておぞましいもの。
「そう、それだよそれ!その力を持ってして、その手で、みんなを殺したんだろ?」
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