[9]2つが1つにもどる時(page5)
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そこまで言いかけて、モカの親は口を噤んだ。
でも、あれではっきりとわかった。
ぼくの命の重さは、モカに比べると、ずっと軽いんだってこと。
モカの親だからじゃない。天界にいる天使すべてがそう思っていることを、ぼくは確信してしまった。
―――――ぼくって、そういう、存在なんだ。
――――ほかのすべての天使にとって。
だから今、ここで恥をさらしながら処刑されようと、
そんなのどうだっていいことのはず。
ぼくはもともとそういう扱いで、そういう存在。
たとえ・・・・、たとえローザが目の前にいたとしてもぼくは・・・・。
・・・・ぼくは・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なんでこんなにくやしいのかな・・・!!!!
なんでこんなに惨めなんだろう!!!!
やるせない、やるせないよ!
ぼくはこんなところで死にたくはなかった!!!
ぼくだってやりたいことがあったんだ!
ふつうの天使として扱ってほしかった!
ぼくにはぼくの命の尊厳があって、それを尊んでほしかった!
ぼくだっていろいろやりたいことがあったんだ!
笑ってみたかった!恋してみたかった!愛してみたかった!
誰かに必要だって、言ってほしかった!!!!!
どこかに居場所がほしかった。
どうしてぼくは、こんな人生なんだ!
ぼくだって、ぼくにだって、半天使としての、尊厳があるんだ。
生きる権利があるんだ。
ぼくは自由にぼくのことを愛して、しゃべって、行動していいはずなんだ!
ぼくはぼくのことを尊重していいはずなんだ!!
たとえ、全てがぼくのことを蔑ろにしたとしても。
ぼくはぼくであり続けたいんだ!
ぼくはぼくで、これからもぼくとして生きるんだ・・!!!
・・・・・生きたかった。
ーーーー言葉にならない心の叫びは、静かに彼の中でこだまする。
しかしその叫びが誰かに聞き入れられることはなかった。
「ヴァイオレットを連れ出しなさい。」
突然、冷たい衛兵の声がした。
複数の天使がぼくを取り囲み、ぼくの四肢を強引に鷲掴みにした。
とっさにぼくは睨んだけど、何の意味もない。
ぼくは天使の墓場の横にある処刑場へと連れていかれた。
天界には似つかわしくない物々しい灰色の建造物。
厳重な封印と魔法が施され、中央のサークルに入ると力が完全に奪われる。
天使の墓場はかつて天使と悪魔が戦って、天使が大量に死んだ場所。
天界ではもっとも縁起の悪い場所だ。
今でも沢山の羽が堆く積もっている。
天使はその力で悪魔を滅することは出来ても、
天使を滅することは出来ないので、こういう時にだけ都合よく、悪魔の力を借りるのだ。
そう、ぼくと同じ、半天使の存在を。
半天使はこういう時にだけ、都合よく利用される存在。
誰もやりたがらない仕事、目を背けたくなるような任務。
それらは全部、半天使に押しつけられる。
どこから連れてきたとも知れぬ半天使たちに囲まれて、
同じく半天使のぼくは、今まさに殺されようとしている。
物理的に殺すわけじゃない。
ぼくたちみたいに元々肉体を持たない存在は、精神エネルギーみたいなものを限りなくゼロにさせて、自己消滅を狙うんだ。
そしてそれをするためには、光ならば闇、闇ならば光と、
相反するエネルギーで相手のエネルギーを消滅させるのが手っとり早い。
天使にはぼくの半分しか殺れない。
でも半天使ならば・・・・。
慈悲の欠片も感じられない冷徹で強引な誘導によって、
ぼくは無理矢理中央サークルに押し出された。
半天使たちがぼくにトドメを刺すために、ぼくの周りを取り囲んだ。
そして、ぼくに向かって・・・。
・・・・・・・さようなら。ぼく。
・・・・・・さようなら、かわいそうな、ぼく。
これで、やっと、救われる。
ーーーーそう、救われるんだ。
さようなら。
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