[9]2つが1つにもどる時(page8)
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ーーーーー俺はその、囁きに手を貸した。
兄を、兄を・・・・・。
突き落としたんだ。
奈落の底へ。
・・・・・・。そう、俺が、殺ったんだ。
「ダンテ・・・ダンテのためなら・・・」
「ダンテ、君の笑顔が大好きだよ。」
「ダンテ・・・・」
・・そうだったんだ、
・・・・・思い出した。
うまれつき大天使だった兄を、
ああしたのは、
「俺」だった・・・!!!!!
それを思い出した瞬間、
あまりにも強烈な自己嫌悪がダンテの全身を駆け巡る。
そのあまりの嫌悪で己を殺さんばかりだ。
俺は美しい羽を持ち、澄んだ瞳で、光の天使としてふさわしい・・・・
ふさわしい・・・・・
存在ではなかったのか!!!!!!
なぜなんだ。なぜ俺は・・・!!!あんなことを!!!!!
悪魔は、半天使なのは、クズなのは、
この世に必要なかったのは、本当は、
「俺」だったのか・・・・・!!!!!!!
何をしても劣っていた鼻つまみもののグズ半天使とは、
俺、俺のことなのか・・・・・!?
ダンテは両拳を強く握りしめ、腕がヘし曲がりそうなほど激烈に地面を何度も何度も叩く。
拳からは天使の銀の血が滴り落ちる。
「ダハーカ!あの天使、程度が低すぎて楽しくないわ。」
横でトドメを刺すような言葉をつぶやく悪魔ネボラ。
しかしダハーカは黙ってそれを見ていた。
「ダハーカ様、こちらの軍勢が、圧されています。もうあまり持ちません・・!!」
急に駆けつけた悪魔の一人がそう叫んだ。
緊迫するその悪魔とは裏腹に、ダハーカは黙って目を閉じたままだ。
「このまま敵の猛攻が続けば、我々は・・・。」
悪魔がそう言いかけて、ネボラが顔をけ飛ばす。
「気の抜けたこと言わないでくれる?殺すわよ。」
ダハーカは誰かと戦っているらしい、そして、戦況はとても劣勢。
そしてそこに、ダンテが捕らわれているようだった。
ダンテは錯乱し、皮肉にもヴァイオレットと同じように、たくさん自分を傷つけ、暴れまわっていた。
「魔界へ行ってきてはくれないか?」
半天使ヴァイオレットはふいにルーミネイトにそう言われた。
困惑するヴァイオレット。
アスタナもルーミネイトと同じような目つきでヴァイオレットを見つめた。
「な・・・なんで・・・ぼくが・・・。」
正直イヤだ。どうしてぼくだけが、毎回辛い目に。
また騙されるんだ。騙されて、利用されて、そして。
利用価値がなくなれば、ボロ雑巾のように捨てられる・・・。
ルーミネイトだってぼくを利用した。
ローザを近づけて、ぼくを監視した。
そしてぼくに、魔界への過酷な任務をたくさん言いつけた。
それはきっと、厄介者のぼくに死んで欲しいってことだったんだ。
命辛々生き残って天界に戻ってきたぼくを、心底残念に思っただろう。
ぼくにまた、ああいうことをやらせる気なんだ。
ヴァイオレットのこわばった顔と猜疑心に満ちた表情から来る、
強い不信感と恐怖はアスタナにもルーミネイトにもすぐに伝わった。
そして突然、アスタナは跪いた。
背の高いアスアナの視線が、一気にヴァイオレットより低くなる。
ヴァイオレットは驚きのあまり、後ずさる。
「あなたに過酷な運命を強いてきたこと、
そしてこれからも、それをお願いしなければならぬこと、
ほんとうにすみません。」
アスタナは頭を下げた。
「私が精一杯貴方を守ります。だからどうか、お願いできませんか・・?」
なんか・・・こういう丁寧な感じ、ちょっと、ごんべえを思い出すなぁ・・・。
ぼくなんかに頭を下げる人なんて、ごんべえと、このヒトくらいしかぼくは知らない。
ごんべえ・・・。ごんべえに、会いたい・・・・。
「・・・良いですよ。」
それは無意識だった。ヴァイオレットはいつの間にか、その言葉を発していた。
ごんべえを思い出した瞬間、頑なな何かが溶けて、何もかもを許してしまったんだ。
それでまた、ひどい苦痛と、裏切りに遭うかもしれない。
また繰り返すかもしれないにも関わらず・・。
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