[9]2つが1つにもどる時(page14)
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ヴァイオレットは先ほど本陣だった場所にある、ダンテがいた建物を発見出来た。
ダンテはまだ、ここにいるだろうか・・?
本陣はすっかり蛻の殻になっており、悪魔もほとんど見かけない。
たまに部外者の悪魔が見物に来たり、何かを盗みに来たりしている程度のものだ。
・・・・そうだ、悪魔!
ダンテがまだあそこにいるなら、悪魔の餌食になってしまう!!
ヴァイオレットは慌てて建物の中へと入った。
やはり独特の異臭がして、淀んでいて、あまり居心地の良い場所ではない。
いくつもの部屋を通り過ぎ、ダンテのいた部屋へ急いだ。
散らばった置物、羽の断片、あの部屋にしかなかった独特の異臭。
・・・ここだ。
「・・・いた!ダンテ・・・・!!!!」
木っ端微塵に砕け散ったわけのわからない残骸の中央には。
ダンテだった物体が、先ほど見た時よりさらにヒドくなって捨て置かれていた。
どんどんと「物」のようになっていくダンテを見て、ヴァイオレットは心底ゾッとした。
「助かる・・・助かります。ダンテ!ぼくはダンテを助けます・・・!」
増大していく不安と恐怖を振り切るように、ヴァイオレットはそう自分に言い聞かせた。
幸いにもルーミネイトとアスタナから貰った天使の力がまだ少し残っていた。
もしそれが尽きれば、天使の純粋な治癒魔法が使えなくなってしまう。
どうしても、残りの天使の力をすべて使ってでも!
ダンテを生き返らせないと!
そして・・・めいっぱい、殴ってやる!
ヴァイオレットは、少し涙ぐみながら、力の限り治癒魔法を使った。
なるべく邪念が入らないよう、精一杯の、聖なる祈りを込めた。
ぼくが天使でいた頃の、ダンテの暗い顔。
いつもぼくになにかを訴えていた。
ぼくはそれを満たしてあげられなかった・・。
ぼくが半天使として天界に連れ戻された時、ダンテは大層怯えていた。
あのままダンテは、堕天してしまうと、誰もが思った。
ダンテは元々格の高い天使だったから、堕天されると天界にとっても大打撃。
だからぼくたちは、記憶を封じられた。
ぼくは半天使として再び目覚め、ダンテはもともとの純天使として目覚めた。
ぼくはずっと、生まれながらの半天使として生きた。
ダンテも・・・生まれながらの・・・・・
その時だった、ふいに思考をダンテとぼくの親について巡らせ始めたとき・・・。
鮮烈な映像が、ぼくの頭に飛来した。
「あれは・・・・・!!!」
その映像には、一人の女性の姿が・・・・
ハッッ・・・・!
赤い光、紫のウェーブがかった髪。
彼女は・・・!!
「あのアスタナって人は、ぼくの・・・・!」
そのときだった、ダンテにかけていたはずの治癒魔法が妙な渦を描いてヴァイオレットを取り囲んだ。
「え・・・!?一体、なにが・・!!??」
その渦は円を描くようにいくつも折り重なりあいながらどんどんどんどん大きくなっていく。
「ぼく、治癒魔法・・・・を、失敗させた・・・!!?」
その力の増大は止まらなかった。
エネルギーはヴァイオレットのコントロールを離れ、どこまでもどこまでも大きくなっていく。
「ど・・・どうしよ!ダンテを助けるはずの、さいごの、天使の力だったのに・・・!」
その力はオーロラのような色合いで、ぐんぐん渦を描いて昇っていく、天井を破壊し空間を破壊し、そして・・・
「ぼくが妙なことを考えたせいだ・・・!!!
どうしよう!エネルギーが暴走してる・・!
ダンテを、ダンテを守らなきゃ・・・!!」
その渦は魔界の天まで届いたかと思うと、ヴァイオレット目掛けて一直線に墜ちてきた!
とっさに身一つでダンテを庇った。
ヴァイオレットはダンテに多い被さるように、精一杯手足を伸ばした。
たとえそれが形だけのものだったとしても、
もう今のヴァイオレットにはそれしかできなかった。
ダンテのことは生き返らせられなかったけど、でもせめて・・・。
ダンテのことを守って消えたい。
ものすごい力がヴァイオレットに直撃した。
すべての意識が掻き消えた。
痛みさえも感じなかった。
ヴァイオレットはそのまま、ダンテの上に突っ伏したまま動かなくなった。
・・・・・ようやくじゃな。
少し経ったあとで、とある悪魔がその現場に現れた。
セイウチと蓑虫を掛け合わせたような、あの悪魔だった。
悪魔はゆったりと地面に座り、煙草のようなものをふかして、黒い枝のようなものをを弄んでいた。
黒き 血潮 遊ぶ 荒野 離れた 滴 2つの 涙
誰かが 叫ぶ 渦巻く 炎 声は 乱れ 姿は 消える
光が 闇で アレは 楽園 誰かが 願った それは 理想
暑い 苦しい 飢餓 戦慄 あれも これも それは 幻
途切れ途切れの言葉がものすごいスピードで意識を流れていく。
まるで幾千もの意識が、集結しているかのように。
宇宙 離れた 道 出来た 戯れ 光る 双子 キミ
そこは、超高速で流れる電脳空間のようでもあり、
宇宙の最果てのようでもあった。
いうなれば、いくつものコンピューターの情報すべてが一気に流れるマザーコンピューターの中のような世界。
それは、世界そのもので、世界と一体化している、そういう感覚。
ふしぎで、果てしなく、膨大で、意識を超越した世界。
沢山の情報がどこまでもいつまでも、あっちこっちを行ったり来たりしていた。
たくさんの悲しみ、生と死。
喜び、嘆き、無念、後悔。
そのなかに、ひとつ、見覚えのあるものが。
ある存在の記憶が流れてきた。
半天使として生きた、報われず、苦しみだらけの、虚しい人生。
血反吐を吐くような憎悪と、悲しみと、後悔。
そして、許しーーーー。
さいごに半天使は許そうと思った、許したいと、願った。
その願いが最後に光となって現れた。
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