[9]2つが1つにもどる時(page15)
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「この子はこういう生き方をしたのか・・。」
その半天使の無念と、願い、そしてほんの一粒の希望に、ほかの存在の願いが呼応するように集まってくる。
[意志]
それらは[意志]を持っている。
意志はほかの意志と合わさって、より強力な願いとなり、それは力となる。
半天使の残した願いが、ほかの願いと呼応して、小さな小さな光だったものは、やがて大きなひとまとまりの存在となった。
「・・・そうだ、もう一度だけ。」
マザーコンピュータは、それに最後の力を与えた。
その光は収縮し、そして、
小さな小さな、その存在となったソレはどこかへ消えていった。
ーーーーーーーー世界、そこは、いくつも折り重なり合い、
世界、そこは、いくつもの真実が存在し、
世界、それは、いくつもの分かれ道がある。
はるか昔、ティラ・イストーナ・セルミューネに一つの小さな粒が落ちてきた。
小さな小さな粒は、侮られ、踏みにじられて、軽んじられ、無視された。
それでもその小さな粒だった存在はあきらめなかった。
ちいさな粒は長きに渡り、力を付けて、ある存在に挑んだ。
しかし、卑劣な罠に嵌まり、粒は力を封じられた。
そして粒は存在ごと消されようとしたが、ある邪魔が入った。
「おもい・・・・出した。」
少年は立っていた。眩く輝く砂の上に。
「おもい・・・出しました・・・!!」
少年は震えていた。いくつもの大きな感情を、処理しきれない。
「ぼくのことを助けてくれたのは・・・。」
「ごんべえさん、あなたの正体は・・・!!」
少年は叫んだ、その瞬間・・・・。
輝く砂は消え、気がつけばじっとりとした暗い空間が辺りを覆っていた。
少年は徐に、手足を確認する。
いつもの感覚、触感、短めの四肢。
そして少年の下には・・・・。
「・・・!!!ダンテ・・!!」
少年は慌てて自分の図体を転がしながら下敷きになっていたダンテを解放してやる。
「・・・・あっ・・・!?」
屍のようだった物体が、先ほどよりも、わずかに血の気があるように感じる。
「・・・ダンテ・・・???」
そっとダンテの頬に触れてみる。まだ、体温はほとんどない。
「待っていてください、必ずダンテを、蘇らせてみせます。その為なら・・」
少年はすっと立ち上がる。そして両手を天に向けた。
「・・・・いきます!」
少年が力を溜め始めた瞬間、辺りの空気が一変する。
ものすごいエネルギーが、少年を取り囲み始めた。
その力は、ふつうのエネルギーではなかった。
密かに状況を伺っていた悪魔がぎょっとして物陰から顔を覗かせた。
それは先ほどいたセイウチと蓑虫のような悪魔だった。
この悪魔がぎょっとするのも無理はなかった。
なぜならそこに先ほどまでいた半天使は・・・。
まるで別人になったかのように、大きなエネルギーを纏っていたからだ。
半天使だったその少年は気高く右腕を掲げ、何かを叫んでいた。
それに呼応するかのように大きく偉大なエネルギーが少年に集まっていく。
少年はその膨大なエネルギーに翻弄されることもなく、
ただ身を委ねている。
その少年は、何かを信頼しきっている、微塵も疑いなどない、そんな顔をしていた。
少年は天に翳していた手をゆっくりとダンテの方へ向けた。
膨大なエネルギーがいくつもの糸のように、川の流れのように、少年からダンテへと流れていく。
何時間にも及ぶ、忍耐強いエネルギーの注入作業がこうして行われていた。
だが、
少年ははっと、異変に気づいた。
「魔界が・・!」
肌に妙な揺らぎの違和感が伝わってくる。
誰かの悲鳴に似た風音も鳴り始めた。
「・・いかなければ・・!」
少年はきゅっと上を向く。
そのあと、おずおずとこちらを窺う悪魔に視線を合わせる。
「おじさん、ダンテを、よろしくお願いします。」
悪魔はまた驚いた。
見ず知らずの、しかも悪魔に天使のことを頼むなど、
正気の沙汰ではないからだ。
悪魔は何かを言いかけたが、少年はそそくさと、羽を広げてどこかへ飛び立とうとしている。
「ま、まて、お前は、お前はさっきまでの、半天使か?」
すでに羽ばたき、空中にいた半天使は、遠くの方で微笑んだ。
「ぼくはただの、ヴァイオレットですよ・・。」
素朴にそう言い放った少年は、颯爽とどこかへ飛んでいってしまった。
そこはオルボ石の指し示す祭壇がある場所だった。
そこに妙な光の渦が出来て、大勢の悪魔がそこに吸い寄せられるかのように入っていった。
ヴァイオレットは祭壇に立っていた。
「決着を、つけないといけないみたいですね。」
少年は目を閉じて、少しだけ、何かを考えているようだった、が、
すっと再び目を開き、光の渦を見据えて、両羽をバサッと広げた。
いつの間にか2対に増えた羽は、とても大きく立派なものになっていた。
少年はそのまま、光の渦に突っ込んだ。ほかの悪魔と同じように・・・。
しばらく妙な幻覚や摩擦に襲われたかと思うと、あるときぱっと視界が開けた。
そこは一面が白だった。
ガラスのようなもので空間が覆われて、
奇妙なくらいの静謐が漂っていた。
自分の微かな呼吸の音と、静けさのあまり聞こえてくる妙な環境音だけが、耳に残る。
神聖を思わせるような、或いは冷淡を思わせるような、硬く、白く、冷たい床。
そこに映る自分自身の姿によって、常に何かを問われているようだった。
悠久の時を経てもなお、ここはこのままなのかと、ヴァイオレットは静かに思った。
カツン、と小さな音がして振り返ると、そこには先ほどまでなかった姿があった。
蒼白くぼやけた髪に、古びた布を纏った人物。
「久方ぶり。」
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