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[9]2つが1つにもどる時(page13)

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自分の手には、誰かの血が、ついていた。


ちがうちがう。違う!!


殺すって・・・何?それは・・・


「どうしたら、罪を、償えるの?」

ぼくは苦しみから逃れるために、そう聞いた。
少年は冷たい眼差しをぼくに向けた。

「それはキミが、これから決めることじゃないの?」

突き放された気がした。でも、その通りな、気もした。


―――ぼくが決める。生き方を。


ぼくがどんな存在として生きるかは、ぼくが決める。

ぼくが・・・。





ぼくはずっと苦しんできた。
見る人すべてがぼくのことを差別の対象として扱い、
ぼくが来るとみんな逃げていった。
ぼくが来ると石を投げられ、
ぼくが来ると不穏なことが起き、
ぼくが来るといつも誰かが不幸になる。
ぼくが来るとみんな恐怖で顔が歪んだ。

自分はきっとこの世に存在しないほうが良いのだと、ずっとそう思い続けていた。

でもいくらそう思っても、自分で自分を無きものにする勇気は出なかった。
耐えることだけが、ぼくが出来る、唯一で最善の方法だと信じていた。

―――――だけど、それには限界があった。
ぼくは、もう、耐えられなかった、誰かに侮辱的なことをされることも、誰かが恐怖のあまり、お前さえいなくなれば!と言われることも、
ぼくはもう微塵も耐えたくなくなった。

そして次に来たぼくへの暴力に、ぼくは何千倍もの暴力で返してしまった。
それでもぼくが耐え続けてきた暴力に比べれば、塵ほどの大きさもない。
そこから何かがぷつっと切れて、ぼくの中に燃えたぎる黒い炎が止まらなくなった。
たくさんたくさん、殺したいと思った。ぼくが殺られてきたのと同じ方法で。
―――――もういっそ殺してくれ!と泣き叫んでも殺してやらないくらいの、残虐な方法で。
ぼくはよく知ってる。どうすれば絶望するのか、どうすればいっそ殺してくれと、死んだほうがずっとマシだと思うのか。
簡単だよ。自分がされてきたことと同じことを人にやればいいだけなんだから。




たくさんの苦しみの末、ヴァイオレットは多くの人を傷つけた。
そしてそれは、彼自身をも深く深く傷つけた。
彼はどんどん深い闇へ堕ちていき、より多くを破滅に追いやった。

たくさんの人を苦しませた。たくさんの人の悲鳴を聞いた。たくさんの人から愛や希望を毟り取った。
"だってそれはなによりぼくがずっとされてきたことだから。
ぼくが世の中に返して、何がわるいっていうの?"

彼はずっとそう言いながら、ずっとどこかで苦しんできた。
ずっとずっと、葛藤してきた、自分が許せなかった。
自分自身も、自分自身をそこまでにした自分の人生そのものも、ゆるせるものではなかった。
―――――過去が、ゆるせなかった・・・。生きてきた人生の出来事すべてが、ゆるせなかった・・・・。

でも・・・・。
ヴァイオレットは纏わりつくようにべっとりとこびり付いて離れない苦しみを、無理やり振り解くように、ある決意をした。
・・葛藤からの解放。
ぼくの本当の『願い』。




――――――ぼくがなりたいものは。




ヴァイオレットはゆっくりと息を吸い込んだ。
自分の心を確かめるように目を閉じて、それから、
ゆっくりと目を開いて目の前の少年を見た。



「・・この人たちを、生き返らせたい。」



突飛なことを言ったぼくを、そいつは笑った。
「え?あはは!バカな。生き返らせて、また殺すの?いつものように?」

「ちがうんだ、ぼくは、今度こそ、違うぼくになる。
もうぼくは、すべてを許すよ。

沢山の罪を犯してきたことも、沢山ひどいことをされてきたことも、ぜんぶ、許してく。」

相手は、哀れんだ目でこちらを見てきた。

「・・・いつまで続くかな、それ・・。」

「罪も、これからずっと、命が尽き果てるまで、永遠をかけてつぐなうよ、そして、ぼくは、ぼくのなりたい存在になっていく。」

「なぜ、そんなことを・・。今までのキミじゃないみたいだ。」

「ありがとう、キミは、今までのぼく、でしょ?
ぼくはダンテを助けたいんだ。きっとまだ助かる!
もう、自分で自分を苦しめる生き方なんて、やめにしたい。
ダンテを助けて見せる。」


「・・・・キミは、」

相手が何かを言いかけた、その目は、不思議そうにぼくのことを見ていた。

「ぼく、ダンテを助けに行ってくる。」

はっきりと、そう意図した瞬間、ぼくはもとの魔界に戻っていた。



汚濁した大地、有害なスモッグが漂う空間に松の葉のように尖った植物のようなものが辺りを覆っている。

強引に悪魔たちに取り囲まれて中央祭壇まで連れて行かれたものだから、引き返す道が、こちらであっているのか今一つ自信が持てない。

でも、急がなきゃ・・・!!

まだ手遅れじゃない!手遅れでなるものか!!ぼくはあのままダンテと永遠の別れなんて、絶対に、絶対に認めない。



ヴァイオレットは力の限り走った、もう何もかもを捨て去って、ダンテの元へ急いでいた。

そのはずだった・・・。

なのに。

「あれ・・・なぜ、ぼくは・・・・」


ヴァイオレットは目の前の光景を疑った。

だってそこは・・・


「ぼく、・・・・
飛んで・・・・る!?」


気づけば宙に浮いている自分の姿がそこにあったのだ。

「なぜ・・?一体何が?」

自分の体を確かめて、初めて、ある違和感に気づく。

そう、背中の辺り。

なんだこれ、何かが・・・!


背中に何かのエネルギーを感じた。

「ぼく、・・・・まさか!」


急いで辺りに姿を映せるようなものを探した。

自分の背中を確かめたかった。

でも周辺には何も見当たらない・・。

・・・・・・・。

「・・そうだ、ダンテのいた部屋の手前に、鏡のようなものがいくつも置いてあった!」

ヴァイオレットは先を急いだ。
背中が、時々、疼くのを感じた。

ーーーなんだろう、妙な気分だ。
今まで感じたことのない、不思議な、気分。

なんなんだろう、この感じ。

ちょっと自由になったような、不思議な気分だ。

今まで居たことのない世界に誘われたような、そんな開放的な、気分。


ヴァイオレットがその妙な気分に酔いしれていると、背中で感じていたエネルギーが先ほどより大きくなっているのに気がついた。

「・・・あれ・?まさか・・・羽が、成長して・・・」


しかし、妙に気分が良いのも、ここまでだった。




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