[9]2つが1つにもどる時(page18)
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闇はいつでもそこにあり、心の中の小さな隙間を見つけて住み着く。
そしてじわじわ広がって、拡大する。
誰かの不幸は、大勢の不幸を呼ぶ。
歯止めがかからない。その広がり方は猛烈で、過激。
一度自分を見失ってしまえば、あとは魔の虜。
自分が何をしたか、本当の意味で認識出来ている者などいない。
ただ、その時は訪れる。
自分のやってきたことの[意味]が問われる時が。
ーーーー辺りは静まり返っていた。
そこにはたくさんの、残骸があった。
それは、いつもある、争いの後の、最も残酷な光景だった。
どこかで見たことある。
この光景。
見知った人が、たくさん倒れている。
白い、白い。この地の上に・・・。
ヴァイオレットは我に返った。
そしてそこには、争いが集結した後の静寂と、たくさんの犠牲で空間すべてが覆われていた。
「こんな・・・こんなことって・・・!」
それは確かに、"あのとき"見た光景だった。
魔界でダンテを助けに向かっている途中、急に捕らわれた空間、イメージ、
あそこで確かにぼくは言った。
"ぼくはすべてを許します。"
そう、誓った、はずだった・・。でも・・・・。
結果はその光景が物語っていた。
たくさんの死体が、そこにはあった。
すべての原因は、ぼくが過去の闇に耐えきれず、暴走したせい・・・・。
そう、ぼくの、・・・・・。
ヴァイオレットはその場に倒れ込んだ。
自分と自分の闇に失望し、悲しみのあまり、涙も出ない。
そのうえこの光景は、前に見た光景と同じ。
「・・・こうなることは、・・・すべて、・・・・わかっていたことだったんだ・・・。
だからぼくは、あらかじめ今と同じ光景を・・・見た・・。」
なのにぼくは、できると思った。
そして、・・・ぼく自身に・・・・敗れた・・・・。
向こう側にいたぼくは、こうなることを心配してくれていたのに。
ぼくはそれを無視した。
・・・・・その結果が・・・・・!」
茫然自失としているヴァイオレットに、ゆっくりと誰かが近づいてくる。
そして耳元でこう囁いた。
「争いと殺戮を広げているのはおまえじゃないか。」
見上げるとそこには、天使のようににっこりと微笑む、サハクィエルの姿があった。
その言葉は、今のヴァイオレットにとって、トドメの一言だった。
ヴァイオレットは押し黙ったまましばらく動かない。
ただ両の手の拳が小刻みに震えている。
やがて、ゆっくりと顔を上げ、サハクィエルを見つめて静かにこう言った。
「ぼくを・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・ころして。」
サハクィエルはにっこりと微笑んだ。
「いいよ。でも、楽になりたくて責任を放棄するなんて、都合がいいな。
極楽地獄から遣わされた天空神とは思えない所行だ。」
それは侮辱のつもりだった。
こんなところで簡単に魔に取り込まれてしまう今の半天使など、取るに足りないと思ったからこその発言だった。
だが、その一言が、ヴァイオレットに強い意志をもたらした。
「ぼく・・・・そう。ぼくは・・・・・。」
ダンテの顔が浮かんだ。ローザの笑顔がよぎった。ごんべえの微笑みも。
「ぼくはこの混沌を終わらせて見せます!
ぼくは、極楽地獄から来た統合の半天使、アウセマーン・ルフトゥ・シーエルなんです。」
ヴァイオレットの意志に呼応するかのように、エネルギーが集まってくる。
「そして今のぼくは、アスタナの赤とダハーカの青をもらった、ヴァイオレット」
それは、まるで最後の灯火のようでもあった。
「ぼくは、半天使、ヴァイオレットなんです!」
ヴァイオレットはそう言い放つと、最後の力を振り絞って、すべてをサハクィエルに注いだ。
ヴァイオレットのことを侮っていたサハクィエルは不意を突かれる。
ヴァイオレットは命が枯れ果てる覚悟で、最後の力を、すべて賭けてサハクィエルにぶつけた。
今、人間界で、ある決着がつこうとしていた。
長年の旧態勢力、権力や格差の上に成り立つ、力で支配する人間の世界。
そして、自由とまだ見ぬ世界を愛する人間たちの革命。
それらの諍いや鬩ぎ合いは世界各地で頻繁に起こるようになっており、混乱を極めていた。
2つの勢力は行きつ戻りつを何度も何度も繰り返しながら、やがて・・・。
それは穏やかな勝利だった。
いつの世も、新しく生まれ変わりながら時代が進んでいく。
繰り返してきた歴史。争い。権力。滅亡・・。
恐怖に怯えていた旧態勢力は、少しずつ変化を受け入れ、新しい時代に身を委ねていった。
徐々に、変化の波に対する恐怖心が弱まっていったのだ。
諍いが耐えなかった時代も終わり、
時代は緩やかに、そして優しく、新しい時代へと変わりつつあった。
人々は新たな時代の幕開けに、夢と希望を抱き始めた。
それは[統合]の時代への先駆けでもあった。
人間たちの活動や意志。
地球で生きるすべての生き物たちの[意志]が、
天界や魔界や、そしてヴァイオレットたちにも、影響を与えた。
ヴァイオレットとサハクィエルは、互いに倒れ込んでいた。
二人ともしばらく動かない・・・。
だが、
サハクィエルの方が、わずかに動いた。
一方で、ヴァイオレットは動く気配すらない。
サハクィエルは、ゆっくりと、ヴァイオレットの方へやってくる。
そして・・・、
サハクィエルは最後の力を両手に込めた。
「・・・・終わりだ、半天使。」
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