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[9]2つが1つにもどる時(page7)

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2つが1つにもどる時 《もくじ》
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アスタナはそこまで言って、再び口を噤んだ。

ぼくがいくら見ても、それ以上は答えてはくれなかった。




ーーーーーぼくのこと。ぼくが生まれてきたことの、意味。






幾重にも折り重なる黄金の波紋が時折粒子となり空を舞う。
静謐さが漂う神秘的なその場所で、2人の天使に見守られながら、
ヴァイオレットは静かに自らの存在に思いを馳せた。




・・・・・一方、ヴァイオレットが存在するより遙か地下深く、
闇の底の底、そのまた底の地獄という場所で、

それは起こっていた。





「俺が?・・・おれが、何だって・・・・???」



湿気を含み澱んだ部屋。枯茶色の空間にラッパに似た奇妙な柱がいくつも壁に埋まっている。
その部屋の中央で、金髪の青い瞳を有した天使が頭を抱えて錯乱していた。
辺りには、まき散らされ、壊された装飾品の数々・・・。


そして狼狽する天使の横で、冷たく悪魔が立っていた。
紺桔梗のネグリジェらしきものを纏った悪魔ネボラが、ダンテを誘拐しここまで連れてきたのだ。


「もう思い出しても良い頃よ。せっかくルーミネイトのことを聞き出すために連れてきたんだから、役に立ちなさい。」

ネボラが声をかけるが、ダンテの耳には入っていないらしい。
ダンテは相変わらず頭を掻き毟って図体を小刻みに上下に動かしていた。


「・・・哀れだこと。自分のしでかしたことでしょ?
天使って脆い生き物なのね。クスクス。」


横で悪魔が冷たく笑う。


ダンテは一通り暴れた後、疲れ果てて動かなくなった。
徐々に意識が遠のいていく・・・。



ーーーーーーーだ・・・ん・・て・・・・。


ーーーーーーーーーだん・・・て。


・・・・・・・・・ダンテ。



声の主を見ると、金色の髪の少年が、満面の笑みでこちらを見ていた。


いつも通りの光景。いつも通り、やさしい・・兄。


「ほら、ダンテのために、たくさんの霊結晶を集めてきたよ。半日もかかっちゃったけど、ダンテが気に入ればいいなと思って。」

目の前の「兄」は照れくさそうだった。

俺は・・・・黙ってそれを受け取った。


「ふふ、ダンテ、明日もキミが欲しいもの、言ってごらん。ぼくはなんだって見つけて来てあげるから!」

とてもうれしそうに、そして照れくさそうに、一点の曇りもない笑顔で、兄は今日も笑っていた。

背中には見たこともないほどの、美しい羽。

どんな鳥でさえ叶わぬほどの、澄んだ声。

慈愛に満ちた瞳。そして、黄金色の・・・、髪の毛。



なにもかも、俺はこの兄に、劣っていた。


俺は兄の陰で生きてきた。


たった一つで良い、俺が誇れるものを、兄が持っていない何かを、俺は手に入れたかった。



俺がどんな無理難題を言おうとも、兄は喜んで、それに従ってくれた。

兄はそれが愛なのだと、信じて疑わなかった。

一点の曇りもない兄には、俺の心に巣くう闇など、わかりはしないのだろう。


どんな言葉をかけても、光に満ちたプラスの言葉で返される。
どんなに俺の闇を見せても、彼は暖かい言葉をかけ続けた。


それが俺にとってどれだけ痛々しいことだったか・・・、

おまえにはわからないだろ?


俺は知って欲しかった。理解して欲しかった。

だが、おまえは・・・・。

ただの光しか知らないおまえは、

俺の影など、理解出来るはずもなかった。

兄よりも見劣りする見窄らしい小さな羽、くすんだ瞳。

そしてなによりこの・・・・兄を恨めしく思う、この不完全で、不安定な、心。


俺は自分自身が醜いことが後ろめたかった。
隠したかった。どこかに埋めてしまいたかった。
兄の隣で存在していることが恥ずかしかった。

完全なる光の兄には、理解出来まい。

おまえは最初から完全で、完璧なのだから。




ーーーーーー俺はずっとそう信じていた。




だがある時、知ってしまったんだ。

俺は大天使に呼び出された。





「なあ、ダンテよ、アレをどう思う?」
その大天使は冷たい視線を遠くで微笑んでいる兄にやった。

「え・・・どうって・・・その。」

「何かがおかしい。まるで悪魔が化けて、
わざと天使の皮でも被っているようじゃないか?」



ははは・・! そんなバカな。
兄はいつでも完璧で、兄から発せられる光は見紛うことなき・・・・。


見まごうことなき・・・・・。


・・・・もし、


・・・・・万一、


兄に欠点があるとすれば・・・・・??



兄に何か弱みがあるとすれば・・・・・・?




・・・・それは・・・・・。


それを知れば俺も・・・・・・。



「なあ、ダンテよ、ひとつ、頼みがあるんだが・・・。」




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