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[9]2つが1つにもどる時(page19)

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サハクィエルはトドメの一撃をヴァイオレットに放った。
確実に殺れるよう、最大の力を込めて。

バシッッッッ!!!!!!


強い閃光が空間を支配する。



その閃光はあまりに強く、空間から放出され、世界全体を照らしたという。


人間界では怪奇現象だのオーロラだのと騒がれた出来事だった。

光はしばらく止むことをせず、7日の間続いたという。

人々はそれを不思議そうに眺めた。

新しい時代の幕開けを予感する人々、不安に胸曇らせる人々、お祭り騒ぎの人々。

そして、光は徐々に徐々に、穏やかになっていく・・・。

世界中を照らしていた光はゆっくりと収束していった・・・。

―――――そして・・・。



サハクィエルは言葉を失った。

そこに在ったのは・・・、

ヴァイオレットではなく、

自分の所持していたはずのホドンローグだったからだ。

ホドンローグはサハクィエルが「神」でいられた力の源。

もともと力の強い存在ではあったが、ホドンローグの力によって、天界と魔界、そして人間界の秩序に膨大な影響を与え、支配できていた。


ホドンローグはもはや残骸となっており、
先ほど放たれた強大な光は、ホドンローグが破壊された光だったのだ。


サハクィエルは錯乱した。今まで信じてきたもの、手に入れていたもの、満たされてきたもの、すべてをかけて守ってきたものが、一瞬にして奪われたのだ。

サハクィエルはただただ、目を見開いて、声にならない叫びを上げているかのようだった。

サハクィエルの愛するもの、悲しみ、絶望、今まで守り抜いてきたもの、その原動力・・・、
すべてがサハクィエルの中に流れ込んでくる。


「ごめんなさい・・・。」
ヴァイオレットは虫の鳴くような声でサハクィエルに囁いた。

「お兄さま、これで、任務は終わりです。」

そこにはホドンローグを運んできた、死神レナシーの姿があった。


「おまえは・・・・!!!」

サハクィエルはレナシーの存在を警戒していた。
だがサハクィエルが封じたヴァイオレットと違い、レナシーは神出鬼没でその行動を把握しきれずにいた。


「ここは貴方が望んだ二元性のセカイ。

私たちも極楽地獄から生まれ出でてここへ来る途中に、秩序によって分離したのです。」

レナシーはそっと言葉を紡いだ。

「男と女、光と闇、正と悪、もうそれも、終わりですね。」

レナシーはそっと、ヴァイオレットに近づいた。

「すみません・・、ぼくが、不甲斐なくて。」

ヴァイオレットとレナシーは、そっと、手を取り合った。

「お兄さま、ホドンローグの力を失ってセカイの均衡がとても不安定です。」

「ぼくの最後の任務だね。・・・はじめよう。」


一体と化したヴァイオレットとレナシーの間に、大きな力が生まれた。
2人の背中に、六対の輝かしい羽が見えた。
ヴァイオレットとレナシーに流れる天界、魔界、人間界、それぞれの3対の羽が、2つ合わさって、6対となった。


それは地球の隅々に行き渡り、支えを失った世界を再び安定させていく・・・。

それは新しいエネルギーだった。

見方によっては恐怖でもあり、でも一方で、希望とまだ見ぬ期待にあふれた力。


これから新しい世界で、すべてのいのちは、新しい生き方をしていくことになる。

それぞれの速度で、それぞれの思いと意志をもとに。







ダンテは魔界で目覚めた、そのはずだった。
だが、世界にもう魔界は存在しなかった。
魔界にあった「魔」は力を失い、うっすらとした昔の余韻が漂っているだけであった。
「一体なにが・・・」
ダンテが状況を把握しきれずに呆然としていると、ダンテの視界にある坊主男の姿が飛び込んできた。

「ごきげんよう~良い目覚めでしたかな?」

坊主頭の男は上機嫌そうに両肩を震わせた。
男の周りには沢山の悪魔"だった"ものたちがいた。

「・・・お前は誰だ?ここは一体・・・。」

ダンテが不審の目を男に向けると、男はにっこり笑ってこう答えた。

「ごんべえと申します。あの方が、そう名付けてくれたので。」

そして男は、こんな歌を聞かせてくれた。
―――――それは今までになかったこの世界で語り継がれている新しい伝承歌。


極楽地獄より来たりし半天使、その身を2つに割き、
ひとつが偽神と相対す。

偽神の罠にはまった半天使、その身を封じられるも、命辛々魔界に落ち延びる。

強大な力を持った偽神、半天使にトドメを刺すべくその者を狙う。

赤き大天使と青き元魔王、その者を助けるべく、大きな力をその者に施し、それは天へと送られる。

偽神から隠された半天使、大天使として忘却のもと、穏やかな時を過ごす。

しかしその者、偽神の戦いで手に入れしホドンローグの欠片を弟に授ける。

ホドンローグが宿せし強大な光と闇の力、弟の心は蝕まれる。

その者、弟によって魔界に送られ、半天使の力が目覚め始める。

世の侮蔑と偏見、耐えに耐えし半天使。
多くの闇の力をその身に宿す。

やがてその力を以て世界を闇に覆う。

初代魔王の昇華の力、それによりて半天使、自我を取り戻す。

もう一つの半天使、死神レナシーと呼ばれし者、時同じくし、天界に封じられし記憶の塊、オブリビオンを解放す。


記憶の解放、すべてのものの目覚めとなりて、偽神への扉を開く。


2つの半天使、最期に再会し、ひとつとなった。

破壊されたホドンローグ、世界を新たな力で包み込む。

長い戦い、幾億年の歴史。


人の意志が、力を与えた。

すべての[意志]で、世界は動いた。

新しきものが世界に溢れだす。






闇が消え去ったその世界で、人々は笑っていた。

たくさんの世界を賛美する喜びを見て、六対の羽を持つものはひっそりと微笑んだ。



それは過去、それは現在、それは未来、 ――――――極楽地獄の伝承、ある一つのものがたり。



[THE END]

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