[9]2つが1つにもどる時(page17)
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「美しかっただろ?聖と闇の均衡。天界と魔界、そして人間界。
生と死、争いと平和。
二つはいつも均衡してせめぎ合っているからこそ美しい。」
サハクィエルは両手を広げて今の瞬間、世界中で起こっている映像をいくつも見せた。
「この世界は、美しいです。そしてこの世界の意志もまた。」
縛り付けられた苦しみで声が掠れながら、ヴァイオレットはそう付け加えた。
「意志?世界の?私の意志が世界の意志だよ!
お前が存在していられるのも、私が存在している[意味]も、すべては光と闇が存在しているからこそ成り立つものだよ。」
サハクィエルは低く声を荒げながら、ヴァイオレットを挑発した。
それは古いものと、新しいものがせめぎあっては行きつ戻りつしているような、まさにそれを具現化したような光景だった。
サハクィエルは今の世界を愛し、ヴァイオレットは世界の変わりたいという願望を尊重していた。
ヴァイオレットはか細い声でこう続けた。
「そんなことは・・ないんです。今の世界が変わっちゃったら、半天使としてのぼくはなくなっちゃうけど、でも、ちゃんと新しいことが待ってるんです。」
「そこに私とお前の居場所などあるかな?」
「たくさんの、歴史を見てきましたよね?サハクィエル。
幾千年もの間、多くの人間たちの、天使たちの、悪魔たちの、苦しみも悲しみも見ましたよね?
もう、変わるときが、来ているんです。あなたがどれだけ拒んだとしても。」
その時だった、空間が急激に歪んだかと思うと、気づけばそこにはたくさんの悪魔やら天使が居た。
「しまった・・・!
半天使め、お前はこれを狙って・・」
ヴァイオレットは攻撃を受けながら、密かにあることをしていた。
攻撃の合間を狙って、サハクィエルに、ある小さな魔法を何度もかけて、
サハクィエルのエネルギーが直接ヴァイオレットと繋がった瞬間、その魔法が発動するようにしていた。
サハクィエルは力の強い存在で、空間をいくつも作り出せる。
オルボ石の祭壇に出来た光の渦に入っていった悪魔や天使たちは、おそらく皆、違う空間で同時にサハクィエルと対峙していたのだろう。
意図的に天使や悪魔を同じ空間にし、互いを争わせたり、また一対一となり、じわじわ相手を弱らせたり。
「ヴァイオレット・・・。」
そこにはルーミネイトやアスタナ、そして、
「ガハハハハ!坊主やりおる!」
昔お世話になった、"元魔王"とかいうあの悪魔の姿もあった。
・・・ごんべえ、ごんべえは、この中に姿が見当たらない。
無事なのだろうか、彼に、もう一度だけ会いたかった。
複数あった空間が一つになり、光の渦に入っていった者たちが一堂に会したことで、
事態はややこしくなった。
現魔王が元魔王に猛攻撃を再開し、一部の天使と悪魔も争いを始めた。
もともと神聖で静寂だった場は一気に混乱と汚濁に満ちたものとなった。
たくさんの悲鳴や怒号が鳴り響く。もう辺りは戦争状態で、誰もそれを止められない。
その混濁した空気で、悪魔は力をつけ、天の者は力を奪われていく。
そしてヴァイオレットの中のバランスも崩壊を始めた。
記憶を思い出し力が増大したはずのヴァイオレットの中で、今まで心の奥に封じ込めてきた「魔」が疼き始めたのだ。
過去のひどい経験、悲しみ、憎しみ、苦しみ、怒り!
ローザ、それは最愛の人、でもぼくを、利用していた・・・・。
"アレ"は、ぼくを、監視対象として見ていた。
それだけじゃない、ルーミネイトも、ダンテも、アスタネイトも、皆・・・ぼくを・・・・!!
ヴァイオレットは自分を失い、復習心が心を支配していく。
「しっかり。あなたが何者か思い出して。あなたは何をしにここまで来たのですか?」
・・・声の主はアスタナだった。アスタナはほかの悪魔や天使からの攻撃からヴァイオレットを守ってくれていた。
「アスタナ・・・・。」
蹲っていたヴァイオレットは、少し正気を取り戻す。
「ぼくが、やりたかったこと、ぼくが、やらなければいけないこと・・・。」
ヴァイオレットは自分の闇を振り切るかのように、羽を広げた。
「ぼくは半天使ヴァイオレット!
光と闇の統合をしに来ました。
サハクィエル、あなたの持つ、ホドンローグを今度こそ取り返します。
そして、この長い長い光と闇の戦いに、永遠の終止符を!」
ヴァイオレットはサハクィエルめがけて突っ込んだ。
アスタナとルーミネイト、そして元魔王のダハーカも後に続く。
サハクィエルとその従者たちと正面衝突するヴァイオレットたち。
サハクィエルは強大な力を持っており、
大天使のアスタナやルーミネイト、元魔王のダハーカをもってしても、押されていた。
何度も何度もぶつかり合ううちに、ヴァイオレット側が確実に力を消耗していく。
そのうえ・・・。
「ぐあああああああっっっ・・・・!!!!」
この汚濁した空間のエネルギーにより、ヴァイオレットが変調を来していく。
まずい・・・、ぼく、どうしたら・・・。。。
記憶は戻ったっていうのにどうしてぼくはこんな不安定で・・・。
力が足りない。ちょっとしたことで、ぼくの闇が増大する。
いくら過去を許そうと思っても、何度も、何度も、何度も、
過去の絶望が、殺意が、ぼくのすべてを支配する。
殺したい・・・。
・・・・殺したいんだ!!!
すべて憎しみに変えてやる!!!!!
誰も、何も、信じられるものか!!!!!!!!
俺はずっと、ゴミのように踏みにじられながら、
ずっと独りで生きてきたんだ!!!!!!
ヴァイオレットが暴走を始めた。
ヴァイオレットに続いていたアスタナやルーミネイト、ダハーカたちは、ヴァイオレットの大妨害で、一気に体勢が崩れる。
そこをサハクィエルは見逃さなかった。
ヴァイオレットの暴走と、サハクィエルの猛攻撃がアスタナたちに炸裂する。
それでも彼らは戦った。諦めなかった。意志を見失うことはなかった。でも・・・。
それからどのくらい時が流れただろうか。
人間界のたくさんの国は、混沌の争いを未だ続けていた。
政治も、社会も、すべてが光と闇で鬩ぎ合っていた。
それはまるで、天界や魔界で行われていることと同じであった。
多くの人間が、自分の思う人生を生きた。
だが社会は未だ闇が多く被さり、真実とはほど遠い場所にあった。
その闇に惑わされ、多い隠され、多くの人間は社会に蔓延る不幸を享受した。
ーーーーーー闇は、深い。
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