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[9]2つが1つにもどる時(page16)

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2つが1つにもどる時 《もくじ》
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一つの[声]はその静寂を破った。

その声の主はガラスの建物の奥に存在していた。

ヴァイオレットは黙したまま、声の主を見つめる。



「どうして再び私の前に現れたのかな。」


声の主は薄笑いを浮かべてヴァイオレットに囁いた。
それを受けて、ヴァイオレットは重い口を開く。


「・・あなたの[意志]そして、人々の[意志]。

それがいくら相反するものだったとしても、やがて終わりは来るんです。

どんな葛藤も、苦しみも、理不尽も差別も、いつかは終わりがやってくる。

数千数万のいのちと時代、もうあなたにとっては十分満ちた時間だった。」

ヴァイオレットの言葉を受けて、相手の口元が少し歪んだ。

「ヤツがお前を守らなければ、お前はとっくに無き存在だったじゃあないか。私の世界は長きに渡り安寧そのものだよ。」


声の主は憎たらしそうな低い声を、ヴァイオレットにぶつけた。
ヴァイオレットは穏やかな表情のまま静かに口を開いた。

「ごんべえ、普段静寂な神界唯一の[意志]。


・・・・本来の世界に、戻しましょう。
サハクィエル。」


ヴァイオレットがその名を呟いた瞬間、四方から刃がヴァイオレットに向かって飛んでくる。

ヴァイオレットは攻撃を防御しながら悲しそうに声の主、サハクィエルを見つめた。

「あなたがその力でもって世界を抑圧することをやめない限り、苦しみは続いていきます。
でも、もう世界は変わる時なんです。
いくらぼくの存在を消そうとしても、また、極楽地獄から新たな存在が生まれる。
その[意志]が存在する限り。
多くの人の[願い]が消えない限り。」



―――――願い・・・それは希望。
それは最後の希望だった。このあまりに残酷な現実を変えてくれるかもしれない最後の、『希望』。
人々は何千年も、何万年も、何億年も、この見果てぬ夢を見た。
だが、幾千年間、夢を抱きながらもそれが叶えられることはなかった。
人々は無念とともにこの世を去った。
それらの願いは長い時間をかけて大きな力を生んだ。

極楽地獄、それは願いを叶える力。
極楽地獄、それは目覚めの力。
極楽地獄、それは人々の【意思】に呼応する力。

あるとき、一つの小さな粒が、地球にやってきた。
だがその粒はある存在の罠に嵌まり、敗れた。
その粒は存在を消されようとしていた。
・・・だが、邪魔が入った。

"わたくしたちで、この存在を守りましょう、来る日に備え、この存在を隠し、わたくしの『子』とするのです・・。"
"天の秩序に抗う気かアスタナよ?"
"―――いずれ、そうせねばなりません。遅いか早いか、それだけの違いです。あなたも十分おわかりでしょう、ダハーカ?"

そこには2つの存在が在った。
赤く気高い大天使アスタナと、サハクィエルの放った新たな魔王に敗れた元魔王、ダハーカ。

2つは天使と悪魔、相反する存在でありながら、交流を密にしていた。
天界にも魔界にも存在する"違和感"。
2つの存在はそれを憂いていた。
止まない戦争、法の名の下に奪われる命、絶対的権力。
そして何より、オブリビオンの存在を彼らは知っていたのだ。

そこへ一粒の異質な存在が堕ちて来た。

それは彼らの憂いに応えるかのような新しい息吹だった。
彼らはこの存在を守ろうと決意した。


そして・・・、この存在は、アスタナの『子』として育てられた。
美しく、気高い、見事なまでの大天使として。

しかし、ある事件をきっかけに状況は一変する。
この大天使は、強い光と闇の力を持つ、"ホドンローグ"のカケラを持っていた。


そしてそれを、あろうことか、弟の天使にあげてしまう。

大きな光と大きな闇、それ以来弟の天使は2つの力に翻弄され続けた。
2つの力の影響は彼の心理を不安定にし、やがて"闇"を作り出した。

ホドンローグの強大な力に翻弄され、弟はついに、兄を魔界へと突き落とすことに成功した。
なのに、兄は変わり果てた半天使の姿になって天界に帰ってきた。
それは、弟にとって恐怖以外の何物でもなかった。

そして天界で、ある疑念が生まれた。

純天使であり気高き大天使アスタナの『子』が、半天使半悪魔・・・・。それはすなわち・・・・・。

兄と弟の記憶が封印されている裏で、それは密かに執り行われた。

アスタナは半殺しにされた後、天界の奥の奥、だれも手の届かない場所へと封印された。

それは天界一のスキャンダルだった。


――――――アクマと交わった、大天使。


ヴァイオレットとダンテは再びトッヘルに育てられ、アスタナの存在は天界から消された。
そしてトッヘルには、固い固い、口封じの魔法が掛けられた。

それは二度と世に出ることのない最大の秘め事だった。
・・・なのに・・・・。
死神と名乗る少女が天界を襲撃して、それは一変した。
一部の天使が、記憶の封印を解かれたのだ。その中に大天使ルーミネイトもいた。
それらの天使は姿を消した、そして・・・。

彼らはオブリビオン解放を画策し、"天の意志"に逆らった。

彼らは壊滅の危機に何度もさらされたが、あるとき状況が好転する。
ダハーカの力添えと、神界から生まれ落ちた一粒の光によって。
彼らはパンドラの箱を再び頼ることにした。
死神レナシーを解放したのだ。
再び神界への猛攻撃が始まることを誰もが恐れたが、今度はそれは起きなかった。
彼女は静寂を保ったまま、少女のように立っていた。

"天の意思"は天界を揺るがしかねない彼女の存在を消そうとした。
しかしそれが逆に、彼女を再び目覚めさせてしまうことになる。
彼女は活動を再開し、暴走を始めた。
だが、暴走を繰り返し彼女が向かった先は・・・・・。

"永凍宮"だった。


―――――そこは天界の記憶が封じられる場所。
記憶のみならず大きな罪を犯した天使が、その存在を抹消することが出来なかった力の強い天使たちが封じられている場所。
それは天界にとって、中央の天界城を攻撃されるのに匹敵するくらいの脅威であった。

そして天界において最も厳重な場所でもあった。

レナシーはこの度も静められ、捕らえられる危機にさらされた。だが、

オブリビオン解放を画策する勢力が、彼女をサポートしたのだ。

永凍宮は深部まで破壊され、天界は大混乱に陥った。
幾千年かけて保たれてきた秩序が、法が、それらによって崩壊を始めた。

そして――――――――――。



「まずはお前の首をはねてからだな。話はそれから聞こう。」
サハクィエルは戦闘態勢で、いくつもの攻撃をヴァイオレットに放っていく。

ヴァイオレットは応戦しながら、サハクィエルに説得を試みていた。

・・・が、

ズシャッッ!!
残酷な音とともに、ヴァイオレットが大きく負傷する。



「新たな世界に心を開いてください。
新たな世界にも、キミの居場所はあります。
希望もあります。いまとは違う形で、だけど、すべての人にとって良いものがやってきます。」

ヴァイオレットの言葉を聞いているのかいないのか、
サハクィエルは熱心にヴァイオレットに攻撃を続けている。
動きが鈍ったヴァイオレットに待ってましたと言わんばかりの猛攻撃が飛んでくる。

「サハクィエル、変わることを恐れないで。」

力が増大している半天使といえど、相手の猛攻撃を躱しきることは困難だった。
時間とともに深手を負っていくヴァイオレット。
それでも力の限り、訴え続けた。

「変わることは、死ではないんです!

あなたもまた、新しい世界で生き続けることが出来る。」

その瞬間、サハクィエルが綺麗な白い羽を放ってそれが茨状になる。
それが一瞬にしてヴァイオレットを取り囲んで締め付けた。
ヴァイオレットの低く鈍い悲鳴がガラス張りの空間に木霊する。


「私は今の世界が好きなんだよ。」


感情が読みとれない妙な表情で、サハクィエルは立っていた。




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