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[9]2つが1つにもどる時(page11)

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2つが1つにもどる時 《もくじ》
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ぼくは殺す気なんてなかった。ただ、ダンテのたからものを・・・返してほしかっただけなんだ。
でも・・・。


ぼくは悪魔の策略に嵌ってしまった。


気がつけば、ぼくは悪魔たちと終わりのない泥沼の戦いに身を投じていて、そして・・・。

修羅と成り果てて、殺し合いの挙げ句、

その身を消される、はずだった。



「なにをしているの?」


それは低く平静を保った声だった。
魔界に蔓延る混乱と錯乱が、一気に鎮静化されるような。

ぼくはふと、我に返った。

そこには、落ち着いた目つきの悪魔が立っていた。


「ここに、なにをしにきたの?」


その一言で、魔界の狂気で我を失っていた自分の意識が戻ってきた。

「ナニヲ・・・シニ?アクマヲ・・・殺しに。」


いや・・ちがう。ちがう、もっと大切なことが。


「恨みを・・・晴らしに。」


ちがう、ちがう・・・・。
そんなんじゃ・・・・なかった。


「命を弄んで、消すのって、ほんと、面白い、ですよね?ふふ。」

このときのぼくの精一杯のマトモな言葉がコレだった。

その悪魔は黙ってこちらを見つめていた。


「憎いじゃないですか、信じてた天使に裏切られて、ぼくはこのザマですよ!
こんな汚れた姿で、羽も半分もがれて、どうやって天界へ帰れって言うんですか!?」


少女の外見をした悪魔は少し考えて、こう呟いた。

「本当に憎いのは裏切った天使?それとも簡単に汚れてしまったあなた自身の弱さ?」

とっさにぼくは、その少女の首を絞めようとした。
無抵抗な悪魔一匹殺すなんて、今のぼくには容易い。


でも、ふと、その少女の目を見てしまったんだ。

まるですべてを見透かされているような、恐ろしい目をしていた。
ぼくはいつでもこの少女を殺せるというのに、どうしてあんな目を!

ぼくは一瞬、恐怖を覚えて、彼女を地面に放り投げた。


「天使であったぼくが、なんの加護もなしに、ここまでどうやって生きて来られたと思います?」

ぼくは自分の左足で少女の図体を蹴りあげて弄んでいた。

「ぼくが弱いから?・・・違う。ぼくが弱かったら、とうの昔に悪魔どもに八つ裂きにされていた。」

なのに少女は無抵抗のまま、ただぼくの方を見ていた。
ぼくは逆にそれが恐ろしかった。

「・・・ぼくは!」

彼女を見てると恐怖がどこからか滲み出てくる!
それを紛らわすために叫んだり、弄んだりしてみるのに、
何かが、もどかしい。

ぼくが彼女を弄ぶのをやめると、彼女はむっくり立ち上がった。

そして、嘲笑の表情を浮かべて、ぼくにこう言った。

「あなたは弱くてちっぽけな自分が、一番こわいのね。」

その表情は、すべてを見透かしていて、その口元は、ぼくをあざ笑っているかのようだった。

ーーーこわかった。

そして、憤りを感じた。


ぼくはこの女にとどめを刺そうと思った。

「あなたは天使じゃなかった。封印されし半天使の血。だから今まで魔界で生きて来られたのよ。」

思わずぼくは手をゆるめてしまう。
するっと、彼女はぼくの懐から抜け出し、
瞬時にぼくを後ろから捕らえた。
彼女が初めて反撃に出たことにぼくは不意を突かれて、
身動きが取れなくなる。

「弱くて、情けなくて、ちっぽけなあなた。
・・殺せるものなら殺してみれば?」


「うぐっ・・・!!!ガガアアアアア!!!」

獣のように藻掻いてみるものの、彼女の力の方が上だった。
今まで無力に見えていたこの悪魔、実は強い悪魔だったのかもと気づいてはみたが、もう時は既に遅い。


「ほら、その証拠に、あなたの背中には・・・」



ーーーーそのときは気づかなかった。
ぼくの羽に何が在ったかだなんて・・・・・・。



その後、だいぶ経って、天使たちが魔界に来た際、ぼくは天界に連れ戻された。
この一部始終は上級天使アスタネイトの耳にも入り、一部の上級天使たちの間で大スキャンダルとして扱われた。
そして、彼らの決定でダンテとともに、記憶を・・・・。

抹消された。

ぼくは生まれながらの半天使として生きることになった。


ダンテ・・・、君がぼくを突き落としたことは許さない。


だけど、勝手に、罪の意識から逃れることも、許さない。

君はそんな簡単に、ぼくを地獄へ落とした事実を、罪の意識もろとも、葬り去るつもりなの?




・・・・そんなこと、ぼくが、ゆるさない。



過去の記憶が戻ったぼくは、動かなくなったダンテを起こそうとしていた。
何度も、何度も、ルーミネイトとアスタナから貰ったこの力を使って。

「無駄なことはやめたら?その力、使いきったらあなたは無力になるんじゃない?」

既に横にいた悪魔には感づかれていた。
そう、この力がなくなればオルボ石が指し示す場で儀式を行うことも・・。


でも、ぼくにとって重要なのは・・・・。


「・・・・起きろよダンテ。なに、勝手に死んでるんだ!
お前がぼくを、突き落としたんじゃないか!
なにが忌まわしい存在だ!
なにが弱くてみすぼらしいだ、ぼくのせいで上級天使に昇格できないだって!?

いいかげんにしろよ!!」


ぼくはダンテに癒しの力を注ぎ込んでいた。
でもそれなのに、ぼくは、ダンテのことを、殴っていた。

腹が立つ。許せない。ダンテのしたことは許せない。

でも、こうして勝手に、独りで逝ってしまうことは、もっと許せない。


ヴァイオレットは何度も何度も、根気強く、癒やしの魔法をダンテにかけ続けていた。



だが突然それは鳴り響いた。

「前線の中央祭壇を、奪取したぞ!」

・・・中央祭壇・・?


その言葉に我に返ったヴァイオレットだったが、何かを思案する間もなく・・。

「そこの半天使を祭壇へ連れていけーー!!」

ヴァイオレットはダンテと引き離された。
そして・・・。

幾重にも折り重なった複雑な文様、そこだけ魔界らしからぬ異世界を思わせる地場。
宇宙の混沌を彷彿させる深みのある異質な地面。
今ぼくは、オルボ石が示す、祭壇に立っていた。
そして、アウスの時は、まもなく、訪れようとしていた。

ダンテのところへ戻りたくても、周りの大勢の悪魔たちがぼくを見張っていて、ぼくには自由が無かった。

もしかしたら、ルーミネイトとアスタナにハメられたのかもしれない。

選択の自由を与えられていたようで、実はぼくは・・・。

逃げるチャンスも、これが何の儀式であるかも、ぼくにはなにも伝えられていないのだから。

それなのに、ぼくはここで、儀式をしなきゃいけない。

なんでぼくはいつもこう・・・。

見張られて、強いられて、自由が与えられていないんだ。

―――その時、魔界の空気が変わり始めた。

アウスの時間が訪れたのだ。

「おい半天使、始めろ!」

偉そうな罵声。上から目線。反吐が出る。

・・・・今からお前を殺して刺し違えたって!




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